新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ハーフの女弁護士朝吹里矢子

 本書は、以前お多福の捜査主任検事霞夕子ものの中編集「夜更けの祝電」を紹介した夏樹静子の中編集。日米ハーフの女性弁護士朝吹里矢子を主人公にした、中編5編が収められている。作者は学生時代から、NHKの推理クイズ番組のシナリオを手掛けていた。結婚・出産で一時期執筆をしていなかったが「天使が消えていく」で乱歩賞候補になって、本格的に文壇デビューする。

 

 作者は「裁判百年史ものがたり」で分かるように法律の世界に興味を示し、女性弁護士や検事が登場するシリーズを書いた。朝吹里矢子ものは、短篇集4編、短編約2ダースが発表されている。

 

・星の証言(1977年)

・花の証言(1981年)

・霧の証言(1987年)

・贈る証言(2000年)

 

        

 

 GHQの講師だった米国人の父サミエルは、彼女の誕生前に事故死している。里矢子は母親の敏江に育てられた。ハーフではあるが、外見は日本人と変わらない。身長も160cmほどだ。敏江が務めていた書店によく来ていたのが、大物弁護士の藪原。その影響で法学部に進んだ彼女は、在学中に司法試験に合格し、藪原事務所のイソベンからキャリアを始める。

 

 本書の5編は、彼女が独り立ちして法律事務所を構えた30歳代前半のころの事件。ゴルフの掛け金の取り立てなどの民事の依頼を受けるうち、関係者が殺人事件に巻き込まれるというパターンが多い。

 

 暴力団や詐欺師、悪徳企業人などが出てくるが、アクションはほとんどない。冒頭の怪奇性、中盤のサスペンス、意外な結末のミステリー3条件も、それほど感じられない。多分作者が書きたかったのは、若き女弁護士の成長物語だったのだろう。

 

 TVの2時間ドラマにもなっている。TV朝日「土曜ワイド劇場」で十朱幸代主演で13作、財前直見主演で7作が放映され、後にTBSの「月曜ミステリー劇場」で南果歩主演の4作が制作されている。

 

 イメージとしては財前直見版が一番合うかな?まあ、あえてハーフにする必要はなかったように思います。