新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ゆりかごから墓場まで

 2022年発表の本書は、東京新聞論説委員で10年以上厚労省を取材してきた鈴木穰氏の同省概説。内側から見た千正康裕氏の諸作(*1)と併せて読むと、この巨大官庁の実態・課題が良く分かる。

 

 「COVID-19」禍で予算が急増しているが、それ以前から一般会計の1/3(30兆円以上)の予算規模があるし、特別会計などを併せると総額は120兆円を越える。

 

・年金 60兆円弱

・医療 40兆円

・介護 10兆円

 

 +αという次第。財務省厚労省にだけ、2名の予算担当官を置いている。またこのところ厚労官僚から「厚労省も政府の一部です」との発言がでるのは、官邸などが同省を「目の仇」に思っていることの裏返しだと著者はいう。

 

        

 

 確かに同省は政権にとって危険な存在、特に年金は地雷原である。

 

消えた年金問題では、第一次安倍内閣が吹き飛び

・それを追求した民主党長妻厚労相も、運用三号保険者問題で追い詰められ

金融庁も、老後2,000万円が必要と公表して炎上した

 

 第二次安倍内閣では(特に)官邸支配力が強くなり、生活保護費切下げを審議会が90億円カットと答申したのに、580億円カットと自民党の選挙公約に沿った措置をしている。医療費についても、高齢化や高度医療の普及などで予算が膨張し続けている。自民党厚労部会・厚労省・医師会の協議で、患者負担増など対策をしているが歯止めは掛けられていない。

 

 多くの制度が太平洋戦争前や戦時中あるいは高度成長期(人口増加期)に作られていて、弥縫策ではどうしようもないのだが、厚労省官僚は弥縫策だけでもアップアップの状況にある。

 

 「ゆりかごから墓場まで」ある意味国民にずっと寄り添うべき官庁なのだが、施策は業界や政党の思惑に左右されて、大勢いる技官の能力や蓄積されたデータを活用して政策決定が出来ないと筆者は言います。その上政府の中で浮いているとあっては・・・。

 

*1:本当の「霞ヶ関改革」とは? - 新城彰の本棚 (hateblo.jp)など