新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

古文書を追いかけて

 本書は2017年にまとめられたものだが、恐らくは読売新聞なりその系列で連載されたコラムを再編したものだろう。著者の磯田道史教授は歴史学者、著書「武士の家計簿」が映画化され、NHK大河ドラマ時代考証なども手掛ける有名人である。現在は浜松市在住で、国際日本文化研究センター教授。

 

 固いイメージのある歴史学者というものを、お茶の間に近づけてくれた人とは思っていたが、著書を読んだのは初めて。失礼ながらその「古文書愛」を知って、ちゃんとした学者さんだと見直した次第。

 

 例えば旧水戸藩には、藩祖光圀公以来額の集積があって古文書も多い。そこで、茨城大学で准教授を務めていたと本書にある。15歳の時から古文書を読み解くことに注力し、そのために学問の道に入ったという。大学院生時代も、カネは無くても貴重な古文書があると聞くと有り金全部出しても買いたいと店主に頼み込み、以後深い付き合いになったとの記述もある。

 

 筆者がオリジナルの古文書を珍重するのは、インターネット時代ゆえ情報は一杯あるがほとんどがどこからかのコピーだということから。ちゃんとした仕事をしようと思えば、オリジナルを確認するというのはどの学問でも基本である。

 

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 本書の記事は、1編が3~4ページほどのもの。約70編が収められている。興味深かったエピソードをいくつかご紹介しよう。

 

豊臣秀吉の最初の奉公は浜松

 浜松城の前身引間城主飯尾氏の陪臣松下家に、16~18歳の3年間奉公したと「太閤素性記」にある。異様な面相の小男だが、何をやらせてもソツなく、主人は重用した。しかし妬みを買って、暇を出したという。その屋敷跡は今、日本有数のパワースポットをなっている。

 

◆秀頼は秀吉の実子ではない

 淀殿ご懐妊のおり、秀吉は朝鮮に渡る準備のため九州の名護屋にいた。淀殿はそれに随行した記録はなく、実子ではないと考えられる。まあ小男の秀吉と違い、秀頼は大兵肥満。体格を見ても実子とは思えないが。

 

水戸藩は徳川家と因縁ある者も雇った

 木村重成といえば真田信繁と並んで大阪夏の陣の豊臣方の勇将だが、子孫は水戸藩に仕官している。このような例は多く、家康の重臣鳥居元忠を討ち取った鈴木重朝(別名雑賀孫市)すら仕官している。

 

 同じ静岡県民ですから、機会があれば仲良くしてもらいましょうかね。勉強になりました。