新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「お宝」を返却したい泥棒

 1983年発表の本書は、以前「強盗プロフェッショナル」を紹介したドナルド・E・ウェストレイクの「ドートマンダーもの」。自称天才犯罪者であるドートマンダーは、仕事にあたりレギュラー、セミレギュラーの専門家(運転手、錠前師など)を集める。しかし小さな仕事では、同居人のメイにも黙って「一人働き」もする。今回は、そんなちょい仕事をしたばかりに、窮地に陥る。

 

 トルコ政府が所有権を主張する2,000万ドルのルビー<ビザンチンの炎>をあしらった指輪が、米国内で強奪された。4人組の武装強盗でギリシアキプロスか、東地中海付近の連中らしい。ニューヨーク市警のマローニー警視正は、特命を受けて捜査を開始する。

 

        

 

 一方ドートマンダーは宝石店の金庫から、安物の装飾品をいくらかせしめたが、その中に強盗団が隠した(宝石は宝石の中に隠せ!)<ビザンチンの炎>が混じっていた。トルコ政府からの激しい圧力を受けて、マローニーは市内の泥棒達を片っ端からしょっぴく。任意同行~別件逮捕というわけ。ドートマンダーが仲間に電話すると「警察に連れていかれた!」との悲鳴ばかり。

 

 彼は、安物の指輪だと見くびって自分の薬指にはめてみたところ、抜けなくなってしまった。メイと2人で石鹸など使って抜こうとしているところに、ついに官憲がやってきた。指輪を左手に握り込んだまま、警察の拘置所で追及を受けるドートマンダーの姿が笑える。危機を脱した彼は、なんとかこの厄介物を返却しようとするのだが・・・。

 

 トルコ大使が「米国政府が盗んだと国連で演説する!」と脅迫するシーンも面白い。警視総監に怒鳴られながら、マローニーも捜査を続けるのだが、そこにドートマンダーからの電話がかかってきた。

 

 思わぬ「お宝」を盗ってしまった泥棒。盗むのは得意だが返却となると・・・。全編を通じて漂うのがアイロニー。ある種の笑劇(ファース)と捉えれば、なかなか面白かったです。続編も探してみましょう。