新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

WASP二家族の大河ドラマ

 「スペンサーもの」などシリーズ作品で知られるロバート・B・パーカーには、なかなか優れた単発ものがある。以前「ダブル・プレー」などを紹介して、作者の手腕を評価したこともある。1994年発表の本書も、そんな単発もののひとつ。アイルランドがルーツの2つの家族が、ボストンに渡って繰り広げる3世代の「大河ドラマ」である。ここで描かれているのは「家族」、それも男女の愛と性を深く掘り下げた物語。厳しいプロテスタントの戒律の下では、性、特に結婚前の男女の性行為は厳禁とされてきた。それゆえ結婚後性の不一致などで「子供をつくったからおしまい」となる夫婦関係になり、20世紀前半では離婚できるケースが少なく、その結果愛人を持つことになる。

 

 若くしてIRAの戦闘員になったコン・シェリダンは、負傷して看護してくれたハドリと愛し合うようになるのだが、彼女は20歳にして富豪ウィンズロウ家の嫁になっていた。英国側についている「家」のため、ハドリはコンを密告する。裏切られたコンは、苦難の末アイルランドを脱出しボストンに渡った。そこで警官として活躍するのだが、ウィンズロウ家もボストンにやってきた。

 

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 ハドリの産んだ息子トマスは小児性愛の性向を持っており、ついに少女を強姦して殺してしまう。トマスを追い詰めたコンは、ハドリの頼みもありカネを貰ってトマスを見逃す。コン自身も結婚していたのだが、妻には絶望していて息子ガスの成長に賭けていた。それにはカネが必要だ。

 

 ガスはコンの警官としての背中を見て育ち、警官となって市警本部の中心を努める警部にまでなる。一方トマスも(性向もあって)妻とはうまくいかず、2人の子供を作っただけで家庭を捨て、銀行業に逃避する。ガスも妻とは不仲で、一人息子クリスがハーバード卒の犯罪学者になることを喜んでいる。その教育費や愛人に使う費用は、ヤクザ組織からのワイロでまかなっていた。ボストン市長が上院議員に立候補しようという時にヤクザの抗争がおき、それを鎮めるために市長はクリスを特別検察官に任用しようとする。

 

 貧しいシェリダン家も富豪のウィンズロウ家も、典型的なWASP。ボストンの街を作ったのは彼らです。作者のホームタウンであるボストンを1世紀に渡って描いた作品、重厚で面白かったです。