新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

再生可能エネルギーへの転換

 本書は3・11東日本大震災と、それに続く福島第一原発(F1)事故当時、総理大臣を務めていた菅直人議員(立憲民主党)が2021年に発表されたもの。昨年「東電福島原発事故、総理大臣として考えたこと」を紹介しているが「これも読んで」と送ってもらった。

 

 世界でも最大級の原子力事故だったF1、これをきっかけに筆者の東電を始めとする関係者との闘いが始まった。この辺りは前著と重なるところもあるが、恐怖を感じたものとして、

 

1)暴走した原発そのものへの恐怖、最大5,000万人が避難する事態も考えられた。

2)放射能への恐怖、半減期2万年以上のプルトニウムが与える影響が分からない。

3)経産省&東電への恐怖、重大事故を想定しなかった彼らには対応力がない。

 

        

 

 就任当初、筆者はエネルギー政策を「原発50%、輸出も推進」としていたが、この事故をきっかけに「原発ゼロ」へと転換する。その後総理を辞めてからも、筆者は「原発ゼロ」にむけた活動と続けている。議員立法として提案したのが「原発ゼロ基本法」。

 

・すみやかに全原発を停止

・省エネに努め、30%の電力を削減

再生可能エネルギー普及に努め、需要の40%まで伸長

 

 するという。これは自民党政権では審議もされず棚上げだが、他にも「全原発の一時国有化&廃止」案を出してもいる。国策として民間に進めさせた原発政策を、国が責任をもって収束させるべきだということ。

 

 再生可能エネルギーについても、農地の上にソーラーパネルを設置する「ソーラーシェアリング方式」で、全日本の農地を発電に生かせば、2兆kw/hの発電量が得られるという。これは日本の必要電力の倍という。農水省も(減反などの施策が終了して)新しい分野を切り開きたくて、再生可能エネルギーには熱心らしい。

 

 政策的には僕の反対側の人ですが、お話は面白いですね。

勇気は出るけど、蛮勇かも

 昨日別ブログで、ニューオータニでの「正論大賞授賞式」に参加したことを書いた。僕が早々に引き揚げてから、岸田総理もお出でになったらしい。なかなか政治力のある月刊誌ということだ。その時、引き出物としてもらったのが本書。大賞受賞の織田元空将と、新風賞受賞のNTT松原さんの記念論文が掲載されている。

 

 新聞の広告欄に載っている見出しは見たことがあるが、この月刊誌そのものを読むのは初めて。冒頭カラーで5ページ、皇室関係の写真が並んでいる。巻頭特集は「有事に備える」で、昨年末紹介した「令和の国防」と「歴史の教訓」の著者兼原氏の対談記事から始まる。

 

        

 

 ウクライナ紛争や米中対立を見れば、自衛隊が闘わない存在であった時代の終わりは明らかだ。だから僕も改めて勉強し始めたので、この特集の意義は理解できる。元陸上幕僚長と前防衛事務次官の対談「全省庁挙げて安保戦略に魂入れろ」までは共感できる。しかし読み進むうち、徐々に違和感を覚えた。もう一つの特集が「メディアが伝えないこと」で、LGBT法案などに関連した意見の中には眉を顰めるような内容もあった。

 

 左寄りである毎日新聞を糾弾する記事が、すでに5回目の連載になっているのも驚きだ。3つ目の特集「人口を増やすには」では、移民についての論考がまるきりない。最後の特集「世界一寸先は闇」は米中露と朝鮮半島の時事で、勉強にはなるがスタンスは「だから備えなくてはならない」に導きたいだけにも見える。大賞受賞記念論文のテーマが核抑止で、これまでタブーだった「持たず・作らず・持ち込ませず」も論じようというもの。全体として、これまで抑圧されてきた人たちに勇気を与えようという意図が見える。当然だが<赤旗>の記事とは真逆。

 

 僕もタブーなき議論が歓迎しますが、与えられた勇気が「蛮勇」に堕すことは無いようにお願いしたいですね。

狂乱経済・社会の是正はなるか

 今日3/8は「国際女性デイ」、中国の通販サイト等では11/11(独身の日)と並ぶ「女王節」の書き入れ時である。2022年発表の本書は、中国通のジャーナリスト青樹明子氏の現代中国経済レポート。習大人が、巨大ITを叩き、教育改革と称して塾などを潰し、有名俳優を脱税等で告発する一方、問題を多く抱える「恒大集団」などは生き延びさせる(僕から見れば)おかしな政策を続けている理由は、本書を読むと理解できる。

 

 確かに中国経済は大きくなった。この30年間に日本のGDPは1.5倍にしかなっていないのに、中国のそれは37倍である。しかしそれは途方もない歪みを抱えた成長で、事実上狂乱経済・社会と言っても過言ではない。

 

        

 

 格差が著しく、一部富裕層の生活は半端ではない。広大な屋敷に住み、ランチでも数万円、1晩の会食で700万円も使うという。都市の中産階級でも120㎡のマンションに住むのは当たり前、子供一人を育てるのにかかる費用は4,000万円。ほぼ月収の全てを住宅ローン返済に充てなくてはいけないが、車と家がないと結婚できないので男は平均27歳で持ち家する。

 

 比較的高給取りでも月収は20万円ほどだが、それより少なくても高価なスマホやPC、衣料品等は欠かせない。安いスマホなど使っていたら「面子」が立たず、仲間外れにされてしまうとある。

 

 少しでも有利な職場、住宅、配偶者を求めてあがく一方、収支を考えず刹那的な消費を繰り返す人が多い。貯金しないのは、収入が不足しているケースもあるが、ファイナンスの感覚が希薄だかららしい。

 

 結婚適齢期の人の男女比が崩れていて、ある農村では女性1人に男性30人になっている。これに子育て費用の高騰が加わっているから、少子化のレベルは日本などの比ではない。正確な統計値はないが、韓国よりひどいだろう。

 

 中国の危機をとりあげたレポートは多いのですが、本書は外交や軍事ではなく社会の本質を暴いたもの。とても説得力がありましたが、習大人はこれからどうされるのですかね。

南北統一への夢と現実

 2020年発表の本書は、東大名誉教授(政治学姜尚中氏の東アジア展望。政権批判番組「サンデーモーニング」のコメンテーターである筆者は、僕には日本政府批判の急先鋒に見える。同番組で、福島原発処理水のことを「汚染水」と言うのは、筆者と青木理氏の2人。ご本人たちは福島の漁業者への風評被害を訴えるのだが、汚染水と繰り返すことで風評被害を与えているようにも思う。

 

 本書の主張も、米国や日本の自民党政権には批判的なトーン。金日成死去の1994年から歴史を振り返り、まず米国等が期待した北朝鮮の崩壊は起きなかったことを強調している。金王朝の崩壊こそ起きなかったが、食糧危機で150万人ほどの餓死者を出したことも確かなのに。

 

        

 

 筆者の目標は南北統一、それも対等合併のような形を期待しているようだ。北朝鮮に核放棄を強制しないともあるので、人口8,000万人の核保有朝鮮国が出来ることになる。しかし、それは日本の脅威ではないともある。また日朝関係については、4つのリミット(共通課題)があって協調できるという。

 

1)人口減少問題

2)(福島原発含む)環境問題

3)地政学、地経学の問題

4)歴史認識問題

 

 1と2は、成熟社会に成ろうとしている両国の共通課題、一緒に解決策を探るべしとある。3は米中露に囲まれたホットスポットに、両国はいるということ。4がある意味深刻で、両国民の間には大きなGAPはないのに、政治的な意図で「嫌韓」と「反日」が盛り上がってしまうのだという。ここまでも納得できないことは多いが、最後に「文政権(対北朝鮮宥和姿勢)の登場は必然だった」として、極貧から努力して人権派弁護士となった文氏を讃えている。それでいて文政権での軍拡(特に海軍力)には肯定的だ。この軍拡は、決して対北朝鮮向けのものではない。

 

 筆者の統一への夢は分かるのですが、現実とは乖離しているように思います。もちろん僕の見解とも。

日本はその時何ができるか

 以前、台湾有事にあたっての米中戦争シミュレーション、渡部元陸自総監著「米中戦争~その時日本は」を紹介した。2017年出版とやや古い書だったが、作戦級のシミュレーションとしては充分勉強になった。

 

Air Sea Battle(ASB)はどう展開する? - 新城彰の本棚 (hateblo.jp)

 

 ただ、当時とは各国の指導者が替わっている。中国、台湾、北朝鮮は同じだが、

 

米国:トランプ政権→バイデン政権

韓国:文政権→尹政権

日本:安倍政権→岸田政権

 

 となった。特に米国、韓国の転換は、中国・北朝鮮にも顕著な影響を与えている。2021年発表の本書は、改憲派のジャーナリスト清水克彦氏が国際政治の視点で捉えた台湾海峡紛争の予測である。

 

        

 

 本書の3/4は、各国の事情・状況を整理したもの。興味を惹いたのは、

 

オバマ政権の対中無策が、習大人の覇道・軍拡路線を助長した

・トランプ政権は北朝鮮を宥和し中国に対したが、経済競争に留まった

 

 ということくらい。習大人の台湾統一の野望は近く、以下のような形で始まりかねないという。

 

1)蔡政権に対し、サイバー攻撃SNSで攪乱

2)中台間の自由貿易協定を破棄し、台湾内の統一派に決起呼びかけ

3)演習とのカバーで戦力を動かし、重要なレーダー基地などを破壊

4)漁船団・海警局艦船・軍艦の順で台湾海峡を渡る

5)「米軍が先に攻撃してきた」と喧伝して部分的戦闘に突入

 

 問題はその時日本が何が出来るかだが、筆者が自民党小野寺元防衛大臣に問うと、自衛隊が行動できるケースは、

 

尖閣諸島など日本領土への攻撃

・日本有事と判断できるほどの台湾への攻撃

・それ以上の「存立危機事態」となったとき

 

 最後のものは、例えば台湾海峡封鎖で日本のシーレーンが止められたような事態だろう。筆者は憲法9条で縛られていて自衛隊が十分戦えないことを、憲法改正で解消すべきと主張している。

 

 しかし本書からさらに1年以上経ち、憲法改正はなくとも「闘える自衛隊」への道は開かれつつあります。そう、ロシアのウクライナ侵攻があったからですね。