新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

政治とは何か?リーダーはどうか?

 本書は民主党政権末期の2012年に発表された、政治記者橋本五郎氏の政治リーダー論。第一次安倍内閣以降、政権は1年単位で交代していた。筆者はこれらの総理大臣を、政治リーダーとは見ていないようだ。筆者がまだ駆け出しだったころからの名だたる総理大臣について、コンパクトに思想・信条・実行力・成果などをまとめたのが本書。短いキーワードで特徴をあらわしたのが、

 

中曽根康弘 王道

・福田糾夫 清貧

大平正芳 韜晦

三木武夫 説得

竹下登 無限包容

宮澤喜一 知性

橋本龍太郎 正眼

・小淵恵三 謙譲

小泉純一郎 無借金

 

 という言葉。面白かったのは、ここに出てこない宰相田中角栄の「影」が彼ら全員に及んでいること。「角影内閣」と揶揄された中曽根政権から、田中派の権力の象徴だった全国郵政ネットワーク改革を掲げた小泉内閣まで、なんらかの関係を持っている。

 

        

 

 一匹狼的性格の橋本龍太郎小泉純一郎が、党内に大きな配慮をすることなく自らの政策(普天間返還、郵政民営化等)を断行できた一方、党内宥和を図る小渕恵三もそれなりの成果を挙げた。本書によれば、その両面をうまく使い分け人事でも天才的なキレを見せた中曽根康弘は出色の総理だったとある。頭の良さでは宮澤喜一に一歩譲るかもしれない、粘り強さでは竹下登に及ばない。それでも巧みに巨大派閥<田中派>を利用するだけ利用し、最後は解体に持って行った。

 

 リーダーのタイプを4象限に分けて論じた表が面白い。和vs.力、原則vs.状況の2軸になっていて、

 

1)原則的で力志向 小泉・中曽根

2)原則的で和志向 橋本・宮澤

3)状況的で力志向 佐藤栄作田中角栄

4)状況的で和志向 竹下・小渕

 

 第一グループには、ブッシュ(子)やサッチャーも入るとある。新自由主義的傾向なのかもしれないが、僕はこの象限が好みだ。著者に会えたら、第二次安倍内閣と今の岸田内閣の評価を聞いてみたいですね。安倍総理はやっぱり第一、岸田総理は・・・第四に見えたけど第三かな?

主張の見えにくいレポート

 2021年発表の本書は、朝日新聞の東京本社経済部長の伊藤裕香子氏の税制論。菅内閣が「COVID-19」対策の説明不備などあって、支持率を下げているころの出版である。菅総理の言葉にある「自助・共助・公助」の順番が違うのではないかと、野党が責め立てていることへのコメントから始まる。朝日新聞の投書欄には、

 

・公助を整備して国民を安心させるのが政府の役目

・公が出来る限りのことをするとの決意が伝わってこない

・高所から「まず自助で」と言われても納得できない

 

 などと、菅総理新自由主義的スタンスにあることへの批判があふれたという。筆者自身はそのような主張をせず「この3つの助は、順番ではなく組み合わせ方が重要」と深入りを避けている。以降、主に消費税の導入にいたる論議や引き上げ(例:民主党野田政権時代の三党合意)の経緯を紹介しているが、これらについても特に目新しい主張はない。

 

        

 

 論点は副題にあるように「置き去りの将来世代」への負担をどう和らげるかにあるはずなのだが、読み進んでもなかなかそこにたどり着かない。後半は特別定額給付金のような「全員一律の給付」論の実態レポートになっていく。

 

 安倍内閣では「COVID-19」で生活が苦しくなった人たちに、1世帯30万円の給付を決めようとしていた。しかし公明党などが「全員一律」を主張して、後に愚策を評される給付が成された。

 

 面白い話として、地方選挙でも「一律5万円給付」を掲げた例が示されていた。2020年の岡崎市長選、この公約で現職を破った新市長だが、財政事情から公約は果たせなかった。ポピュリズム政治の暗部と言えよう。

 

 1,000兆円を越える国債を抱え、政権運営は困難を極める。本書は、野田元総理や鈴木北海道知事、翁日本総研理事長、竹中元総務大臣らのインタビューで「税と公助」についての意見を併記して終わる。どうにも主張が見えにくいレポートですが、新聞ってこんなものですか。

二つの祖国を持った人からのエール

 2020年発表の本書は、台湾出身の「日本人」金美齢氏からの日本人へのエール。強硬な台湾独立派の論客で、日本人よりも(古来の)日本人らしい人である。1934年台北生まれ、1956年に来日し早稲田大学を修了、日本で英語教育に携わった。二重国籍を認めない日本と認める台湾を2つの祖国と考え、結局日本国籍を選んだ。子孫は日台混血だが、日本人として暮らしている。

 

 台湾の李登輝(日本名岩里政男)元総統や蔡英文総統、安倍元総理らに近く、中国共産党政権やそれにおもねる日本外務省のブラックリストに名前が載っているとある。日本の良いところを沢山知っていると言いながら、

 

・日本人の国家意識が希薄なのは悲劇

・日本人に足りないのは「覚悟」

 

 と手厳しい。本来今の日本に産まれたこと自身が幸運なのだから、愛国心を持って堂々と世界に対峙しろということ。

 

        

 

 戦後日本人の精神を骨抜きにしたのは、左派の政治家やメディアだという。同じ日台二重国籍の環境にあった民進党元代表蓮舫議員については、北京への留学もあって中国共産党の代弁者になってしまったとある。また社民党福島党首がかつてTV番組で「福島さんも意外と愛国者ですね」と問われて色を成して否定したことを挙げて、日本の左派の姿勢を糾弾している。

 

 今や「日本精神2.0」の時代との主張で、いかにグローバル化してもルーツとしての日本精神を忘れてはいけないという。英語教育にも一家言あって、まず日本語でちゃんと議論できないうちに英語を教えると「英語はペラペラでも話す内容もペラペラ」な人になるとある。

 

 台湾に日本が残してくれたのは、清潔・公正・信頼・勤勉・正直・規律・責任等の精神。例えば中国(本土)人の「爆買い」についても、安いからではなく信用しているからだとある。総じて日本人へのエールなのですが「この精神を今の日本人は忘れかけていませんか」という警告も含んでいるように思いました。

国土に働きかけてこその恵み

 本書は、国交省の元技監大石久和氏の「国土論」。東日本大震災の翌年、2012年の発表である。国土庁から道路局長とインフラ行政の裏面を知り尽くした技術者である筆者とは、震災前に知己を得てインフラのデジタリゼーションについて議論させていただいた。震災直後に僕のいた会社が仙台でイベントを開催した時には、僕のパネルにパネリストとして参加していただいた。

 

 口癖は「脆弱な国土に住む日本人は、常に国土に働きかけなくてはいけない」だった。その知見のエッセンスが詰まっているのが本書。技術者らしく、多くの数値と図表を使い、国土の実態と過去の日本人がどのように「国土に働きかけ」てきたかが明示されている。「脆弱」の意味は、

 

        

 

・複雑で歪んだ(複数のプレートが合わさっていること)地形

 ⇒ それゆえ地震や噴火、津波など自然災害が多い

・豪雨、台風が多く、都市の集中する河口は軟弱地盤

 ⇒ 水害が多く、いったん発生すると多くの人命が危うい

・急峻な山岳が多く平地は少ない。しかも膨大な河川で寸断されている

 ⇒ 交通路を拓くにも、橋やトンネルなど多くのコストがかかる

 

 ということ。地震の揺れの指標(全国平均水平震度)を例にとると、

 

・ドイツ 0.0

・フランス 0.03

・米国 0.08

・日本 0.22

 

 とケタが違う。加えて、制度的な課題もある。例えば地籍が確定していない土地が多く、再開発するのに余計な時間がかかること。土地保有者が細分化され過ぎているのも問題だとある。

 

 これからの国土行政への提言としては、

 

・1980年代の「荒廃した米国」を他山の石として、インフラ整備にカネをかけろ

・崩壊しそうな地方にもっと資本を廻し、東京一極集中を逆転させよ

・災害に強い国造りをして、インフラ整備も含めて国際競争力を強化せよ

 

 というもの。この書がしめす種々の数値は、今後も僕が国交省の会合で発言する際の参考とさせてもらいます。

是非ではなく事実として

 昨日「医の希望」を紹介して、人が健康で長く暮らせる(働ける)社会になったことを再確認した。僕も今月で67歳。60歳そこそこで亡くなった多くの先達のことを思うと、幸福な時代を生きてきたと感じる。

 

 本書は、平成という30年間の日本や世界の変化をデータで捉えた書。総じてみると昭和後期の経済発展の時代が終わり、近代日本が成熟期を迎えたこと、グローバル化が進み世界の格差が縮まる一方国内での格差が開いたことが特徴と言えるだろう。データについては視点によって脚色されうるが、本書では「是非ではなく厳然たる事実として」扱っている。実感として理解していることもあるが、いくつか実例を挙げよう。

 

        

 

1)在日外国人は2.5倍(約100万人⇒250万人)となった。うち、中国人は70万人を超えている。

2)日本人一人当たりのゴミの量は15%も減った。NOxやSOx排出量も減り、環境問題は改善しつつある。

3)貧困層の所得は、平成前半は伸びたものの、後半下降し結局伸びは無かった。(貧困線:所得中央値の半分)

4)エンゲル係数も、平成前半は下降したが後に伸び、26%と元のレベルに戻った。

5)平均寿命は以前から世界有数だったが、それに加えて平成期間に5歳以上伸びた。

6)年金・医療・介護・生活保護等に費用は2.7倍(約47兆円⇒120兆円)になったが、高齢化だけでなく医療の高度化も原因である。

7)消費支出で最も伸びたのは保健医療、他に交通・通信費も増加。

8)消費支出が最も減ったのは被服履物、他に教育も減っている。

9)世界各国市民が移動距離を増やす(平均1.8倍)中、日本人の移動距離は増えていない(1.1倍)。

 

 政策決定の手段として、EBPMという手法が重視されてきました。ここの取り上げたのはごく一部ですが、このような事実を市民に周知し、だから年金・税金・公共事業・国防等々はこうしますという説明を、政府には期待します。財務省主導だけじゃなくてね。