2020年発表の本書は、東大名誉教授(政治学)姜尚中氏の東アジア展望。政権批判番組「サンデーモーニング」のコメンテーターである筆者は、僕には日本政府批判の急先鋒に見える。同番組で、福島原発処理水のことを「汚染水」と言うのは、筆者と青木理氏の2人。ご本人たちは福島の漁業者への風評被害を訴えるのだが、汚染水と繰り返すことで風評被害を与えているようにも思う。
本書の主張も、米国や日本の自民党政権には批判的なトーン。金日成死去の1994年から歴史を振り返り、まず米国等が期待した北朝鮮の崩壊は起きなかったことを強調している。金王朝の崩壊こそ起きなかったが、食糧危機で150万人ほどの餓死者を出したことも確かなのに。
筆者の目標は南北統一、それも対等合併のような形を期待しているようだ。北朝鮮に核放棄を強制しないともあるので、人口8,000万人の核保有朝鮮国が出来ることになる。しかし、それは日本の脅威ではないともある。また日朝関係については、4つのリミット(共通課題)があって協調できるという。
1)人口減少問題
2)(福島原発含む)環境問題
3)地政学、地経学の問題
4)歴史認識問題
1と2は、成熟社会に成ろうとしている両国の共通課題、一緒に解決策を探るべしとある。3は米中露に囲まれたホットスポットに、両国はいるということ。4がある意味深刻で、両国民の間には大きなGAPはないのに、政治的な意図で「嫌韓」と「反日」が盛り上がってしまうのだという。ここまでも納得できないことは多いが、最後に「文政権(対北朝鮮宥和姿勢)の登場は必然だった」として、極貧から努力して人権派弁護士となった文氏を讃えている。それでいて文政権での軍拡(特に海軍力)には肯定的だ。この軍拡は、決して対北朝鮮向けのものではない。
筆者の統一への夢は分かるのですが、現実とは乖離しているように思います。もちろん僕の見解とも。