W・L・デアンドリアは1978年本書でデビューし、1996年に44歳の若さで亡くなるまでに約20の長編小説を残した。邦訳されたものはその半分もないようで、僕自身「ホッグ連続殺人」と「五時の稲妻」の2編しか読んでいない。エラリー・クイーンを彷彿とさせる本格パズラー作家だっただけに、癌による早すぎる死が惜しまれる。
著作のうちで一番多くの作品に登場するのが、本書の探偵役マット・コブ。このシリーズは4作しか邦訳されていないようで、そのうちの3作を先日平塚のBook-offで見つけることができた。マットはニューヨークにある米国大手TVネットワークの幹部社員。特別企画部に所属しているリーダーだ。この部、社の中では「もめごと処理」の位置づけである。
申請中の許認可に関して影響力のある議員のお気に入り番組を調べて延命させたり、盗癖のある女優のあとをつけて万引の後始末をする、マットに言わせると「ゲリラ部隊」。当該部担当の副社長が病院送りになったので臨時に管理ポストについたマットには、日々怪しげな話しが持ち込まれる。今日は交通事故で植物状態になっている前社長の名前を挙げて、秘密を教えるとの怪電話がかかってくる。前社長シクと現社長ファルゼットはライバルだったが、シクがオーナー会長の娘を妻にしていることから一足先に社長になっている。
マットが電話の男を訪ねると、すでに死体になっていた。この男カールスンは、ワシントンDCにある視聴率調査会社の技術者だった。言うまでもなくTVネットワークの世界では「視聴率が神様」、このためなら魂も売りかねない輩がこの業界にはうようよいる。この調査会社では最新鋭のコンピュータによる視聴率測定システムを開発・導入していてその運営をしていたのがカールソンだった。
マットは会長一族、現社長、昔の恋人だった女優、カールスンの同僚などに会って事件の糸口を見出そうとする。その過程でギャングもどきの実業家ゴールドファーブ一味に命まで狙われる羽目に。どうもカールスンが視聴率の不正操作をしていたらしいと分かったのだが、今度はその同僚まで殺されてしまった。ゴールドファーブ一味の魔手から命からがら脱出したマットは、知りあいのマーティン警部補に依頼して事件関係者を一堂に集めさせる。
関係者を一堂に集めての大団円、意外な犯人、奇抜なトリックと、パズラーマニアの欲しいものは全部含まれていた。さすがに子供のころエラリー・クイーンにあこがれたというだけのことはある。本書で作者は、アメリカ探偵作家クラブの新人賞を受賞しています。あと2冊買ってあるので、読むのが楽しみです。