以前「わらの女」「目には目を」を紹介した、フランスのサスペンス作家カトリーヌ・アルレーのデビュー作が本書(1953年発表)。悪女もので一世を風靡した作家で、第二作「わらの女」は映画化もされた。いずれも登場人物を絞って、心理的な葛藤を描きながら悪女が堕ちていくプロセスを冷酷に示したものだ。
本書の登場人物も、基本的に3人。全米に商業チェーンを展開する大富豪のわがまま娘ステラ、彼女の夫で医学者のスペンサー、そしてスペンサーの研究室からステラの介護にやってくるミス・ベルモントである。
物語は、ほぼ全身マヒの状態になった私(ステラ)が、「私はまだ生きている。必ずここから脱け出してみせる」と執念でくりかえすシーンから始まる。すぐに時代は3~4年さかのぼり、20歳を過ぎたばかりで豪邸に住み、多くの使用人にかしづかれて奔放に暮らすステラの生活が描かれる。ただ実業家の父親が突然半身不随になり、多くの医者がサジを投げた。そこに最新鋭の治療を研究しているスペンサー青年医師が呼ばれて、父親を治癒した。
スペンサーは無口で真面目一徹の学者、寸暇を惜しんで研究しているが研究所を建てて自由に研究したいとの思いが強い。なんとなく深谷忠記の黒江壮を思わせる長身のイケメン。ステラは彼と結婚しようと一計(というか奸計)を案じる。婿として後継者を求める父親と、研究所建設資金が欲しいスペンサーの間に入り、建設資金をエサに結婚を承諾させるのだ。
しかしスペンサーに事業をやる気はなく、怒った父親は再び発作を起こして亡くなってしまう。遺産を相続したステラだが、研究資金を出す意志などなくカジノで大金を失うなど豪遊を改めない。3年間喧嘩を続けた夫妻だが、ついにスペンサーがキレてステラを半身不随にする注射をしてしまう。自分の息のかかったミス・ベルモントに介護させながら、研究資金を出してくれたら治してやると迫るのだが・・・。
ステラの独善的な奸計、スペンサーの専門的な反撃、それでも屈しないステラの暗闘が200ページあまり続く。僕から見ると真面目な学者スペンサーが気の毒なのだが、女性読者はステラを擁護するかもしれない。多分、答えのない議論になるだろう。経歴などもはっきりしないアルレーの作品、在庫はこれで終わりです。ある意味興味深い作家でしたね。