新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

フェア島のペレス家

 アン・クリーヴスの<シェットランド四重奏>は、本書(2010年発表)で一応完結する。「一応」と言ったのは、この後に「Dead Water(2013年)」という作品があるからだ。ただ作者がもくろんだ「冬⇒夏⇒春⇒秋」の季節毎の4作品の流れは、これで一区切りということだ。

 

 最後の舞台となったのは、全編を通じて探偵役を務めたペレス警部の故郷であるフェア島。前作の舞台だったウォルセイ島がシェットランド本島に近接していて、30分おきにフェリーが出る便利なところだったのとは違い「離れ小島」のようなものだ。

 

 ペレス警部の父親ジェームスが船長を務める貨客船が本島との間を行き来するが、急ぐ客は小型飛行機を使う。婚約者のフランを両親に会わせるため、ペレス警部がフランともども乗ったのがその小型機。フランはそのアクロバティックな飛行に、気を失いそうになる。

 

 ペレス家の先祖は、「無敵艦隊」時代にフェア島沖で難破した船から上陸したスペイン人。航海術など先端技術を持っていたことから、島では名家になったのだ。大した産業もない島だが渡り鳥が訪れることで有名で、フィールドセンターというバードウォッチャー向けの宿泊施設がある。

 

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 センターの所長モーリスは目立たたない中年男だが、子供ほど年の違う妻アンジェラはTV等にも出演する有名な鳥類学者である。センターに何人かの客が滞在し、バードウォッチを続けていたある日、アンジェラが刺殺体となって発見される。おりしも海が荒れていて本島からの応援は望めず、ペレス警部は検視官も鑑識もいない単独捜査を強いられる。

 

 島の住民と、センターの職員や宿泊客は生活習慣も(極端に言えば)言葉も違う。奔放なアンジェラは、どちらのグループの男ともすぐにベッドをともにする尻軽女。有名人ではあるのだが、どちらのグループからも嫌われ憎まれている。動機はそこいらじゅうに転がっているのだ。

 

 冬が迫るフェア島の荒涼たる自然、そこに舞い降りる珍しい渡り鳥たち、そして警部と島で暮らしている両親との交流・・・普通小説として読んでもそれらの緻密な描写はとても面白い。4冊を読み終えて、シェットランド諸島という英国の一部ではありながら取り上げられることの少ない自然の四季を満喫しました。