新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ウォルセイ島の歴史

 本書は、アン・クリーヴスの<シェットランド四重奏>第三章。「大鴉の啼く冬」「白夜に惑う夏」に続くもので、2009年発表作品である。北海にあるシェットランド諸島は英国領土ではあるが、古来ノルウェーデンマークやドイツとのかかわりが深い。僕が「Brexit」で動向を注目している地域の一つだ。

 

 前二作は本島での事件だったが、今回の舞台は本島の東側にくっついて見えるウォルセイ島。本島とは30分に一度出港する連絡フェリーで結ばれている。前二作でも探偵役を務めたペレス警部の部下ウィルソン刑事が、実家に帰って射殺された祖母ミマの遺体を見つけるところから事件が始まる。

 

 春の霧の中で、畑などを荒らす害獣のウサギを、隣家のロバートが散弾銃で撃っていたという。ロバートはウィルソン刑事の従兄弟にあたるのだが、この辺りに住んでいる人たちは何らかの形で姻戚関係にある。刑事の両親も近くに住んでいるのだが、ミマの屋敷周辺は今大学の考古学チームが発掘作業をしている。

 

 数日前発掘の中心である大学院性のハティは、古い人骨と15世紀ころの銀貨を見つけていた。ウォルセイ島は15世紀にはハンザ同盟の主要港の一つだったし、第二次世界大戦中はドイツ占領下のノルウェーレジスタンスを助ける拠点になっていた。

 

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 ミマはハティらの発掘チームを応援していたが、その発掘の溝の中で死んでいたのだ。ウィルソン刑事の連絡で現地に渡ったペレス警部の捜査では、ロバートがミマをウサギと間違って誤射した事故だと思われたが、何かひっかかるものを警部は感じていた。複雑に絡まった人間関係、よそ者に厳しい目、住民の祖父・祖母の代までさかのぼる秘密・・・ペレス警部はウィルスン刑事に現地の状況を探らせ、地道な捜査を続ける。

 

 前二作にもまして、季節が春のゆえか風景描写が美しい。濃紺の海に囲まれた緑の大地ウォルセイ島に代々住んでいる住民だが、漁師と農民の格差など隠された憎悪も多い。少子化も進んで移民もほとんど見られないことから、コミュニティの維持も難しい。シェットランド諸島の中でも田舎の島を舞台にした事件、最後の50ページの解決編は鮮やかである。

 

 おまけとして、第一作から登場しペレス警部と付き合いのあった画家フランが、ついにプロポーズを受け入れました。第四作が楽しみです。