新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ブードゥー教の指導者

 本署(2002年発表)は、トム・クランシーとスティーヴ・ピチェニック共著の「オプ・センター」シリーズ第9作。これまでに第一作「ノドン強奪」を始め4作を紹介している。その中では第6作「国連制圧」が面白かった。米国の危機管理組織「オプ・センター」はポール・フッド長官の指揮のもと、多くの試練に立ち向かい米国や世界の危機を救うのだが、第8作「起爆国境」で軍事力を行使できる部隊ストライカー・チームを失ってしまったようだ。(この本が手に入らない・・・) 

 

 本書は痛手を受けたセンターが最初に直面する試練である。舞台はアフリカ南部のボツワナ共和国。人口は200万人くらいといわれるが正確には分からない。主産業は鉱業、主な産品はダイアモンドだ。イギリス連邦に所属していて、治安は悪くない。サファリツアーが人気らしい。主な市街区にはキリスト教が布教していて教会も多いが、現地の宗教はブードゥー教

 

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 ブードゥー教の指導者ダンバラーと砂漠の部族長の王子セロンガが、少数の兵力を率いて行動を開始する。彼らはブラッドベリ司祭を誘拐し、司祭を拷問して助祭たちに教会から立ち去るよう告げさせる。事態を重く見たヴァチカンは、「オプ・センター」に協力を要請するのだが、フッドの手元には諜報組織しか残っていない。

 

 フッドがすぐに現地に送り込めたのは、スペイン人の元インターポール捜査官マリアだけ。その支援要員2人も人選はできたのだが、マリアの夫がセンターの分析官ダレルだったことから、フッドとダレルの間に深い溝ができてしまう。ダレルの心配は妻のむこうみずな行動様式。実際ボツワナ首都の空港で新任の司教が暗殺されたのをマリアが目撃し、単独行動に出る。

 

 セロンガもその司教の誘拐を画策していたのだが、目の前で暗殺されてしまいヴァチカンや米国政府などとは違った勢力が動いていることを知る。フッドのところには、別ルートから不審な動きをする日本政府外務省の藤間分析官の情報が入ってくる。

 

 ストライカーチームが登場しないせいで、ドンパチの場面はほとんどなし。むしろサスペンスフルなスパイ小説に仕上がっている。ただ怪しげに描かれる藤間の姿は、これまでの米国小説にはない日本人像です。作者はついに日本を仮想敵と考え始めたのでしょうか?