新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

5区警察署長アダムスベルグ

 フランスのミステリーというと、多くはサスペンス。本格ミステリーと言われるメグレ警部(警視)ものにしても、英米の本格とはちょっと味の違ったものだ。しかし近代には本格ミステリーも増えて来て、本書(1996年発表)の作者フレッド・ヴァルガス(女性です)はフランスミステリーの女王とのあだ名もある。

 

 実は本書「青いチョークの男」の前に後の作品「死者を起こせ」は買ってあって、なんとか本書が手に入らないかと本棚に収めて手を触れなかった。ある日藤沢のBook-offで本書を見つけて、さっそく買ってきた。本書で登場する探偵役は、パリ市5区警察署の若き署長ジャン=バチスト・アダムスベルグ。直感に優れた男だが、上背はなく風采も上がらずハンサムでもない。

 

 相棒役のダングラール刑事は、教養ある長身の好男子。だが妻に逃げられ双子2組を含む5人の子育ての追われている。悪癖は飲酒で、午後4時には白ワインの紙コップを手放せなくなる。過度の飲酒がたたって体はたるみ、死体を見たりすればすぐ吐く。

 

 パリ市は中央のシテ島からカタツムリのカラのように、螺旋を描いて区のNo.が振られていて、5区はシテ島の南の区域である。ソルボンヌ大学を含む文教地区で、キュリー研究所もある。死体のひとつはキューリー夫人通りで発見される。

 

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 パリに奇妙な「事件」が続いていた。舗道に青いチョークで直径2mほどの円を描き、その中に何かを置いていくというものだ。最初は人形の首のようなモノだったのだが、ネズミの死骸やネコの死骸と徐々にエスカレートしていく。アダムスベルグらの心配は的中し、ある夜その円の中に咽喉を切り裂かれた女の死体が転がっていた。

 

 解説にあるように登場人物はかなりエキセントリック、アダムスベルグらだけでなく海洋生物学者のマチルド、その友人の盲人シャルル。マチルドのお手伝いさんクレマンスなどは「妖婆」のように描かれている。260ページ中、全く章立ても小見出しもない長編小説を読んだのは今回が初めて。登場人物の放埓な行動も含めて、かなりの異色作品である。

 

 ただ読み終わって、ミステリーとしての出来はかなり高いと思います。「女王」かどうかは別にして、じめじめした雰囲気のフランスミステリーとはちょっと違った作家です。第二作を読むとともに、もっと翻訳がないか探してみましょう。