新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ロシア<青の革命>

 2009年発表の本書は、英国の歴史教員ジェィムズ・スティールのデビュー作。彼はオックスフォードで歴史・教育を学び、私立高の副校長である。彼が本書を書いている間に金融危機が訪れ、ロシアでも彼が描いたような政情不安が起きとあとがきにある。

 

 本書の欧州では、ロシアで政変が起きてメドベージェフもプーチンも放逐されクリモフという愚物が大統領になった。彼はスターリン流の恐怖政治を敷き、対立した欧州諸国への天然ガス供給を止めた。外貨不足・物価高でロシア自身も困窮するのだが、欧州の西端英国では電力供給が昼間だけという窮乏に陥った。

 

 クリモフの友人と見られている大富豪セルゲイは、実はクーデターを考えていてチタ州の収容所にいる元野党党首ロマン・ラスコーリニコフ救出を企画する。元サッカー選手で国民人気の高い彼を、モスクワのTV局に連れてきて新政府樹立宣言をさせる計画だ。

 

        f:id:nicky-akira:20200327113523j:plain

 

 英国政府は非公式にこの計画に加担、元近衛騎兵連隊のデヴァルー少佐にその実行を委託する。デヴァルーは、元部下の下士官、ロシア空軍の大尉、ノルウェー軍の狙撃兵、南ア軍の下士官、豪軍の爆発物専門家を集め、マイナス60度と酷寒のチタ州へ向かう。彼らが救出作戦のために用意した武器は、

 

・対空用B8V20ロケット(80mm)、対戦車用コルネット9M133ミサイル

・AGS-30自動グレネードランチャー(30mm)

・コルド12.7mm重機関銃、PKM7.62mm汎用機関銃

・L115A3長距離ライフル(8.49mm)

・M4スーパー90コンバットショットガン

・MTP-2遅延発火地雷

 

 加えて各人が持つGP30グレネードランチャー付きのAN-94アサルトライフルは、600発/分の発射速度がある。処刑直前に嵐をついてロマンを救出したデヴァルーたちは、モスクワへ飛ぶ。セルゲイのTV局で有名な女性キャスターに紹介されたロマンは、庶民の心を揺さぶる演説を行う。

 

・ロシア人には奴隷の魂と自由な魂がある。自由な魂を呼び起こそう。

共産党の赤でも、ツアーの白でもない(国旗の)真ん中の色<青の革命>だ。

 

 TV局にはクリモフ大統領の命を受けた武装警察が迫ってきて、ロマンの声に揺り動かされた群衆に発砲し始める。とにかくロシア軍の兵器展示会のような小説で、BMP-3、T-90、Mi-24、ツングースカ、BPR-80などが出てくる。戦闘シーンも迫力あって、期待できる軍事スリラー作家だと思います。