以前「ヒルダよ眠れ」を紹介した作者アンドリュー・ガーヴは、本格ミステリーでデビューしたものの本当に書きたかったのは冒険小説。生涯に別名義も加えて40作近い作品があるのだが、デビュー作のような本格ミステリーはほとんどない。ある書評には、とにかく沼地と密林が好きな冒険小説作家だとある。
著作のうちの1/4ほどは邦訳されているのだが、最近書店で見かけることもほとんどない。デビュー作は「本格ミステリーベスト100」にも選ばれてるのだが、他には「カックー線事件」「ギャラウェイ事件」くらいが知られている程度。僕はそれらも読んだことはない。唯一作者の作品に触れる機会があったのが本書「諜報作戦/D13峰登頂」である。創元推理文庫には、いくつかのカテゴリがあって象徴的なアイコンでそれを示していた。
・本格ミステリー 男のシルエットに?マーク
・サスペンス 黒猫
・ハードボイルド 回転式拳銃
・法廷もの、倒叙 時計
で、冒険・怪奇ものは古代の帆船だった。本書はある意味スパイものなのに、最初のカテゴリわけが「怪奇もの」になっていたから、僕が買わなかったのだ。
さて本書(1969年発表)では、作者は本当に書きたかった冒険小説に正面から取り組んでいる。未踏の高山を舞台に、高名な登山家ウィリアム・ロイスの活躍を描いた。米ソ冷戦がある意味ピークだったころ、米独の技術陣が高空からの赤外線探知装置を開発した。そのテスト飛行中にドイツ人共産主義者のハイジャックが起き、ハイジャッカーは始末したもののテスト機はトルコ・アルメニア国境の4,000m級山地に墜落してしまう。
装置を狙うソ連軍に対して、西側はたまたまトルコにいたロイスに登山敬遠のある米軍大尉を付けて装置破壊に乗りだす。とにかく未踏のD13峰を目指す2人の苦労がすごい。僕の知らない登山テクやツールの描写が延々100ページも続く。しかし当然だが、ソ連も登山チームを繰り出していた。
敵はイデオロギーではない、自然だというのが本書のメッセージ。ソ連側も落雪で2人を失い、米軍大尉も職務に従って自らを犠牲にする。残ったソ連の女性登山家とロイスは協力しないと下山できないようになり・・・。
なかなか面白い冒険小説でした。創元社のアイコン、もうちょっとわかりやすかったら45年前に買って読んでいたかもしれませんが。