新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

銃口を人に向けるな!

 先週、岐阜県自衛隊訓練場で、驚くべき事件が起きた。小銃の射撃訓練で3名の自衛官が撃たれ、2人が亡くなったのだ。これは、単なる事故や困った個人の暴走ではなく、自衛隊の組織が抱える問題なのだと気づかされたのが本書(2020年発表)。

 

 著者の二見龍氏は、元陸将補。闘わなくてもいい軍隊である自衛隊を叩き直そうと、第40連隊長の時に猛訓練を課したとある。このままでは永久に闘えない軍隊のまま終わるとの危機感が、本書執筆の動機らしい。

 

 小銃の射撃訓練だが、米軍のそれと比べるとやはり甘い。例え弾倉が入っていなくても人に銃口を向ければ、米軍では直ちに取り押さえられ処分される。薬室には1発実包が入る(*1)からだ。これは戦場でも同様で、混乱した戦闘中にも同士討ちしないための心得なのだが、闘うことを想定していない自衛隊ではこれが徹底されず、上記のような事件(*2)も起きてしまう。

 

        

 

 自衛隊の演習といえば「富士総合火力演習」が有名だが、これは自衛隊ファンのための「見せる演習」、どうせ他で使えない弾薬の消費も目的だ。ロシア軍の大規模な着上陸を北海道の原野で迎え撃つ想定だが、そんな戦闘の可能性は高くない。むしろゲリラなどが市街地に紛れ込んで破壊工作を行う時、自衛隊は対処できるのか?それが表題にある「市街戦ができるのか」につながる。

 

 現実の戦闘となれば、机上の戦略・作戦は意味が薄い。戦術は訓練で補えても、戦闘はそれでは不十分。実戦経験と「鬼軍曹2.0」が必要だと本書にある。戦闘を支えるのは下士官なのだ。筆者のような「本気」の自衛官が、下士官以外にも大勢必要だと痛感した書である。

 

 ようやく昨年末の防衛3文書の改訂と防衛費増額で、闘える軍隊への道は開けました。しかしメンタリティの改善を含めて本当に闘えるようになるには、まだまだ長い時間がかかるような気がします。

 

*1:例えばM16系ライフルなら、薬室の脇から実包を1発装填できる。

*2:もし米軍なら、容疑者が銃口を上げた段階で最初に撃たれた陸曹が、少なくとも警告を発したはず。周辺の自衛官が反応することもできたろう。