新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ありったけの航空支援

 「アメリカン・スナイパー」は、イラクで多くの敵兵やゲリラを仕留めた伝説の狙撃兵クリス・カイルの自伝である。クリント・イーストウッド監督で映画化もされたのだが、この本の共著者がスコット・マキューエン。

 

https://nicky-akira.hateblo.jp/entry/2019/06/30/000000

 

 彼の本職は法廷弁護士だが、狩猟用ライフルを使った長距離射撃も得意だという。そんな彼がトマス・コールネーという元警官と書いたのが本書である。題名通りクリス・カイルを思わせる超人的スナイパーがアフガニスタンでの「Mission Impossible」に挑む物語だ。

 

 米軍のヘリパイロットであるサンドラ准尉は、アフガニスタンでゲリラ部隊に誘拐されてしまう。ゲリラの指導者コヒスタニは彼女をわびしい寒村に幽閉し、暴行を加え拷問するさまをビデオに収める。目的は米国政府から身代金を取ること。映像を送られた米軍は身代金を持たせた救出チームを送るが、コヒスタニの姦計にはまって作戦は失敗する。

 

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 一方天才的なスナイパーであるギルは、サンドラの夫を含めて彼女を知る何人かの士官や兵士を集めて彼女の救出作戦を私的に決行しようとする。何百人という敵の中にわずかな人数で潜入したギルたちの独走は大統領の知るところとなり大統領は一旦彼らを見捨てるのだが、サンドラ救出の目が出てくるや(間近に迫った大統領選挙もあって)中東域の全航空戦力で彼らを支援、助け出せと命ずる。

 

 まず、ギルたちスナイパーのタフネスさがすごい。伏射姿勢で敵に撃たれ肩から入った弾丸が尻から抜けても、平然と敵の狙撃兵の脳天を打ち抜く。脚を複雑骨折して馬の死骸の下敷きになっても、狙撃を止めない。まるでターミネーターのようだ。

 

 さらに航空支援もすさまじい。サンドラの夫ブラッグス大尉が操縦するC-130Jスペクターは、25mmヴァルカン砲、40mm機関砲に加え105mm榴弾砲をつんだ空飛ぶ戦車。ゲリラたちを根こそぎ吹き飛ばしてしまう。F-15A-10にB-52、B-1Bまで登場して一人の女性パイロットを救おうとするのだ。

 

 550ページは圧倒的なスピード感ですぐに読めてしまったのだが、ゲリラたちが可哀そうになるくらいの米軍の恐ろしさである。前半思い切りゲリラたちを悪く書いてあるのだが、そうしないと後半の戦闘シーンが読者に受け入れてもらえなかったかもしれません。