本書はTVでも放映されたアニメ「美味しんぼ」に大きな影響を与えた美食家北大路魯山人が、日本料理について述べた多くのエッセイ等をまとめたものである。「美味しんぼ」に出てくる高名な芸術家・美食家の海原雄山は、全く北大路魯山人そのものである。
僕自身芸術にはうとい、というかまるきりわからないので、魯山人の書・画・陶芸等についてはコメントできない。ただ一芸に秀でる人は多芸に通じるというのは本当なのだなと感心するばかりだ。魯山人は貧しい生い立ちで、子供のころから食に飢えていた。功成り名遂げてからも、一食一食を大事にする姿勢は変わらない。
本書には50種あまりの日本料理が紹介されていて、どのエッセイにも魯山人の食に対する飽くなき熱意があふれている。僕らが普段口にしないようなものについても書かれている。例えば、
・若狭のサバのなれずし
・若鮎のはらわた
・どじょう
・山椒魚、蝦蟇
・イノシシ
・てんぷらの茶漬け
・京都のごりの茶漬け
などで、食べ方についても「数の子は音を食べる」などユニークな楽しみ方を紹介している。毒のある魚として有名なフグについても、危ないほど美味しいとの考えを示している。ちなみに寄生虫がいるのでナマで食べるのは危険とされたタニシについても、半生がうまいとある。魯山人は結局タニシの半生を食べ、寄生虫に侵されて亡くなった。
魯山人は星岡茶寮という料亭を開き、日本料理を追求するとともに多くの料理人も育てた。西洋料理や中国料理については、つぎのようなコメントを残している。
「これらの料理は食品原料の持ち味に欠けるために、料理する際にいろいろな補助味を使って調理し、混成味による料理とすることは得意。日本料理は真に優良美味な食材に恵まれているので、補助味としてはカツオブシくらいで十分。上方では昆布も使うが補助味ではなく素材そのものを味わうものだ」
中華料理は知らず西洋料理を少し食べた印象では、かの国にも美味しい食材はあるし「フランス料理はソースが命」とはいえ、素材がNGなら料理がNGなのは当然と思うのだが。
また料理は食べて美味しいだけではなく、見た目も美味しいものであるとの信念があり、この料理はこういう食器にこう盛り付けたいという点も厳しかった。
「その食べ物には程度の高い衣装を着せて、目を最高に楽しませる」
20世紀の芸術の巨人の独白、結構面白かったです。