新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ちょっとは和食も勉強して

 何度かワインや洋食のレシピ、料理法などの書を紹介した。どこまで実践できるかは別にして、当家のディナーが多少豊かになったのは確か。それでは・・・と今度は和食の本を読んでみた。以前北大路魯山人を紹介した本は読んだのだが、ちょっと大物過ぎて参考にするには恐れ多かった。

 

 2010年発表の本書は、東京元麻布で和食店「かんだ」を経営する料理長神田裕行氏が和食のコツを綴ったもの。「かんだ」は5年連続ミシュラン三ツ星を獲得した名店である。ランチ営業はせず、1日18人のお客さんをめどにしている小規模なお店。その規模は美味しいお魚の単位(鯛なら1.5kg、鰹なら2.5kgの半身・・・)を仕入れ、その日に使い切ることを目安に定めたという。

 

 初めてのお客さんでも、最初のビールの飲み方、前菜の食べ方から、お酒がいける方か、お腹のすき具合はどうかと見て、続くメニューを微妙に変えるとある。「おまかせ」が普通の料亭ならではの気配り、いや料理人と客の真剣勝負である。

 

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 筆者はフランスで日本料理店の料理長をしていたこともあり、欧州の気候や水、食材と日本のそれとを比較し、フランス料理と日本料理の本質的な違いをわかりやすく紹介してくれる。簡単に言うと、ソースと出汁の違いである。前者は固形物を液状化したもの、後者の99%は水でわずかに香りづけしたものという。

 

 和食ながら肉についての記述もあり、牛肉を焼く時には内部の血を旨味に換えるためにじっくり火を通すとある。これは、当家がレアのステーキやローストビーフを作る時に実践していること。肉は熟成がいいが、魚はやはり新鮮なものがいいと筆者は言う。仕入れた魚をその日のうちに、お造りで召し上がってもらうのが筆者の狙い。ただ平目だけは2日間は鮮度が持つとある。

 

 「かんだ」にはワインの品揃えは一杯あるが、日本酒は厳選したもの十数種類しかおいていないとある。冷酒は新潟の純米酒、燗酒用には徳島の本醸造酒を用意していて、どんな料理にも合わせられる。筆者が目指すのは究極の日本料理。フランス料理や中華料理との違いは、自然の素材に徹底的にこだわること。「上質なシンプル」こそが贅沢なのだと筆者は言う。

 

 細かな技法ではなく、前菜・お造り・お椀・お寿司・焼き魚・煮物・肉料理・ご飯・デザート・飲み物と並べたそれぞれの考え方が参考になりました。ごちそうさま。