本書の作者マーガレット・マロンは、米国では知られたミステリー作家だが、日本では長編4編しか翻訳出版されていない。1992年の本書で長編デビューし、ミステリー界の以下の賞を独占した。
・アンソニー賞
・マガウティ賞
・アガサ賞
その後本書の主人公デボラ・ノットもの20冊を含め30冊以上の長編・短篇集を遺し、今年2月に亡くなった。享年82歳。米国南東部のノースカロライナ州で生まれ、亡くなっている。主人公デボラも、ノースカロライナの旧家に生まれた活発な女性弁護士。ただ本書のタイトルにあるように、父親が密造酒作りで有罪となった前科者というハンデを背負っている。
ノースカロライナの主産業は家具造りとタバコ、ウィスキー。今ではバイオ産業や金融業が根付いているが、本書の1990年代には衰退するタバコ産業を抱えて産業界は苦悩していたようだ。政治的には南部を代表する土地柄で、白人が65%を占めて人種差別が根深い。白人女性のデボラは地方判事の選挙に立候補しているのだが、対抗馬は黒人のスマートな男性。なんとなく2008年の民主党大統領選挙予備選を思わせる。有権者は「女だが白人か、黒人だが男か」を選択することになる。
34歳で弁護事務所のパートナーを務めるデボラには、思春期の苦い思い出がある。16歳だった彼女は隣人のジェドにほのかな恋心を抱いていたが、ジェドはジャニーというチアガール上がりの美女と結婚、ゲイルという娘が産まれていた。しかしある日ジャニーとゲイルが行方不明になり、3日後ジャニーが射殺体で見つかった。ゲイルは飢え死に寸前に発見され、命はとりとめた。
事件は迷宮入りになったが、18歳になったゲイルがデボラに事件の再捜査を依頼してきた。ちょうど地方判事選挙のさなかだが、デボラは捜査に乗り出す。地方検事や保安官が選挙制なのは知っていたが、判事まで選挙によるとは知らなかった。まさに「民主主義の国」である。
人種差別やLGBTがどう扱われているか、南部の日常の中で克明に描かれる。事件を追うデボラには選挙妨害とも思える悪質なビラ(当時はまだアナログ)が降ってくる。430ページが短く感じるスピーディな展開、4賞そうなめも納得の力作である。
デボラものは彼女の家族・隣人を含めた大河ドラマとして続くといいます。出版された4冊は揃えましたから順番に読んでいきますよ。