昨日司馬遼太郎「新選組血風録」を紹介したのも、このところ「巣ごもり」で古い映画を見ることが増えたから。BSの「木曜時代劇」など、懐かしさに溢れる作品を放映してくれる。先月は「仕掛人藤枝梅安」「柳生武芸帖」を見て、時代劇の良さを再認識している。田宮二郎の藤枝梅安、松方弘樹の柳生十兵衛、ともにはまり役である。
子供の頃読んでいた司馬遼太郎の作品と違い、同じ大家でも柴田錬三郎のものは、社会人になってから少し読んだ程度である。理由は「眠狂四郎もの」が多くの映画になりエロチックなシーンが多いので、子供の僕には見せてもらえなかったから。先日亡くなった田村正和主演のものではなく、市川雷蔵主演のシリーズのことだ。
本書は、江戸時代110万都市だった江戸を舞台にした、ノンフィクションっぽい短編12編が収められたもの。市井の話・仇討ち始末記・大奥の権力推移・幕府財政の裏表から妖怪騒動までバラエティに富んだ構成である。面白かったのは楽屋落ちっぽいのだが、作家仲間の有馬頼義氏との会話で有馬氏が「化け猫騒動」で有名な有馬家の末裔だということから「化け猫話を俺が書いてやる」と言ってしまった件。
結局巷間言われている「騒動記」は真っ赤な嘘だとあるのだが、タネ本はあって「化け猫が老婆に変身して人を喰い酒を呑む」という話だったらしい。
いくつか剣劇のシーンもあるが、その多くは1対1の決闘。「眠狂四郎」などと違ってバッタバッタと斬り倒すようなものではなく、双方手傷を負って何時間も闘い、ついにどちらかが動けなくなって勝負がつくというものだ。剣の心得のない茶人が、千葉周作に「相打ちにならできる」と授けられた必殺技も面白かった。
上記の映画など見ていて、特に「柳生十兵衛の50人斬り」のシーンなどが頭にあり、拳銃はリボルバーで6発、オートマチックでも10発程度しか入っていないので、大勢殺すには日本刀だよねと思っていた子供時代が恥ずかしい。さしもの日本刀も、突いて5人・斬って2人を斃すのが精一杯だということは、大人になってから知った。
作者の作品はあまり記憶になかったのだが、さすがに軽妙な筆遣いと意外性のある展開。うーん、これはまだ読んでいない「眠狂四郎シリーズ」も読んでみるべきですかね。