新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ライ・ウィスキーとコーン・リカー

 本書(1940年発表)は以前紹介した、クレイグ・ライスのマローン弁護士ものの1冊。J・J・マローン弁護士とジェーク、ヘレンが登場するシリーズとしては、第三作にあたる。「時計は三時に止まる」の次の作品「死体は散歩する」は、まだ見つけていない。そこで何があったかは不明だが、デビュー作でケンカしながらも仲の良いジェークとヘレンは、本書の冒頭結婚することになった。

 

 とはいえいつものバタバタ騒ぎは続いていて、カリブ海へヘレンの父親ともども新婚旅行に行くつもりが、ヘレンが乱暴な運転をし父親が警官を殴ったために2人とも拘留されてフライトには乗れずじまい。

 

 本来なら自分たちの結婚を祝福してくれるはずのパーティで、ジェークは杯を重ねるうち妙な賭けに巻き込まれる。シカゴの社交界で有名な美女モーナが、自らのカジノを賭けて、「私が公衆の面前で殺人事件を起こすから、私を有罪にできたらカジノの経営権をあげる」というのだ。これに乗ってしまったジェークはヘレンの救出も忘れて、ただコーン・リカー(多分バーボン)をあおり続けて意識を失う。

 

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 マローンたちがいつも飲んでいるのはライ・ウィスキー、僕の好物も「Canadian Club」というライ・ウィスキーだが、カナダに近いシカゴでは常用の酒らしい。しかしこの日はテキサス産のコーン・リカーが出て来てこれに呑まれたわけだ。ヘレンも釈放されて帰宅すると新夫が潰れているので怒って出て行ってしまったらしい。ジェークを介抱するマローンも、コーン・リカーには痛い目に遭ったことがあるようで、

 

 「気づいたら、埋葬されて3日目だった」

 

 という。呑んだくれているだけならよかったのだが、次の日大通りの交差点で白昼ある男が倒れた。それも小口径の拳銃で至近距離から撃たれてのこと、果たしてモーナが予告通りの殺人をやってのけたのだろうか?「賭け」のことを知らない警察をしり目に、マローンたちはモーナと被害者の男の関係を洗い始める。

 

 江戸川乱歩は本書を評して「本格探偵小説に道化的滑稽を加え(中略)謎と滑稽、恐怖と道化を巧みに組み合わせた」と賛辞を送っている。そのせいもあって、本書は以前にも翻訳があったものを小泉喜美子が新訳している。解説も彼女が書き、その都会的な洗練された雰囲気が好きだと述べています。続編「大あたり殺人事件」も探してみますよ。