新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

麻薬組織とタリバンが組んだ?

 いろいろな共著者を得て、スパイ&軍事スリラーを書き続けてきたトム・クランシーは、2013年に亡くなった。最後の共著者は「グレイマンもの」のマーク・グリーニーだったが、その直前にピーター・テレップと発表した(2011年)のが本書。主人公は、<統合タスクフォース>に加わったSEALs出身のマックス・ムーア。CIA・FBI・DEAのほか、ATF(アルコール・煙草・火器・爆発物局)などの特別捜査機関から集めた人材で、軍事と治安の境目のミッションをこなすのが<統合TF>だとある。

 

 海軍所属時代、パキスタン対テロ戦争を戦っていたムーアは、タリバンによって何人もの信頼できる仲間を失った。その時入手したのが、タリバンの蔭の指導者と副官サマドが、メキシコ人らと会っている写真。ひょっとしてタリバンと麻薬カルテルの関係があるのかもしれない。

 

 9・11後のタリバンとの戦いはもちろん、米国にとっては中南米で生産されメキシコ国境を越えてくる麻薬は悩みの種。この両者が、コロンビアやグアテマラの勢力も絡めた連携をすれば、原題どおり「Against All Enemies」ということになる。

 

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 サマドの狙いは、米国内で9・11以上のテロを起こすこと。そのためメキシコルートでテロ要員や武器を運び込もうとしていた。一方<統合TF>の最初の任務は、メキシコで猛威をふるう<ファレス・カルテル>の撲滅。対立勢力の<シナロア・カルテル>を使って、中心人物を逮捕(もしくは除去)しようとするのだが、実は<ファレス>の頭目は実業家で大富豪のロハスだった。

 

 共著者テレップの影響か、クランシー作品としてはかなり血なまぐさいもの。いつものように各種の兵器が登場するのはいいとして、民間人を人質にとり、冷酷に処刑してしまうシーンや、拷問シーンが目立つ。また、ムーアがSEALsとして入隊し成長する過程が、メインストーリーの各所にフラッシュバックして挿入されていて、ちょっと読みづらい。ペルシア湾での潜入戦闘などはともかく、SEALsの訓練シーンはちょっと冗長だ。

 

 麻薬カルテルが作ったトンネルを抜けて入国したサマドたちは、6月6日に6機の航空機を携帯対空ミサイルで撃ち落とそうとする。666は<コーラン>の数字らしい。長すぎるとはいえ面白い物語でしたが、<統合TF>の第二作は出版されなかったようです。何か事情があったのでしょうか?