2021年発表の本書は、読売新聞社でIT問題を担当、情報セキュリティ大学院大学で2019年には修士号もとった記者若江雅子氏の「PF規制に霞ヶ関は何をしたのか」論。公取・総務省・経産省・個人情報保護委員会や関係する法曹界・学界の人物が多く登場するが、半分ほどは僕も親交ある人達だった。
題名に「GAFAとの闘い」とあるが、読売新聞や筆者がPFと闘ったわけではない。PFの事業分野が膨張するにあたり、その周辺にいた人たちがどう考え、行動したかをまとめたものだ。あとがきや文中の端々に「なぜ日本ではPFは育たなかったのか?」と政府が無策だったとの主張をしてるが、これには僕は納得できない。
サイバー空間には国境がない。本書の中で何度か登場する「一国二制度」や「域外適用」は、各国政府が独自の国内法を堅持しようとするから出てくる矛盾だ。あえて日本でPFが育たなかった理由を言えば、日本は事前規制、米国は事後規制のスタンスでイノベーションを考えているからだろう。
PFは社会に益をもたらしているが、多くの個人情報などを持って、倫理的に問題をかかえていることも確かだ。それに対して、欧州・米国・日本の各国政府(や法学者)のスタンスは異なる。欧州に遅れたものの規制を考え始めた日本政府は、これまでバラバラに活動し互いに牽制もする傾向にあった公取・経産・総務が、2018年に一体となって「デジタルPFを巡る取引環境整備に関する懇談会」を置いて、本格的な議論に入った。そこで議論された4つの課題とは、
1)大量の個人情報を集め、利用している
2)ネットワークの中立性(PFが動画配信などでネットを酷使している)
3)本人認証サービスの在り方
4)法のイコールフッティング
である。日本では憲法上の「通信の秘密」の制約が厳しいことも触れられていて、PF規制論の現状を知るには適当な書ですが、ちょっとスタンスには疑問符が。