新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

レアアースという資産(後編)

 李将軍と黄社長の陰謀は、SGIP社の協力やブラジル大富豪の資金でうまくいくかに見えたが、ICBMの重要部品や精錬装置のコア部分の密輸が、洋上で巡回している米海軍に阻まれてしまう。北朝鮮がかくも高価な部品を手に入れられることを知ったライアン政権は、その資金源を探り始める。またレアアース鉱山の動静を見て、鉱山にスパイを送り込むことも考えた。

 

 一方李将軍は、ライアン大統領がいる限り計画は進まないと考え、<大元帥>の指示を受けてライアン暗殺を企む。世界の諜報機関OBで成り立つSGIPは、闇ルートにも精通していて、暗殺用の要員探しにも役に立つ。選ばれたのはイラン人の爆弾屋。彼らは、ライアン大統領のメキシコ訪問時に、車列を吹き飛ばそうと計略を練る。

 

    

 

 米国情報機関はSIGINTで北朝鮮の動きを監視し、その情報に基づいて公海上の臨検も出来るのだが、鉱山で何が起きているかを知るにはHUMINTが必須と考えた。選ばれたのは、ジュニアにも面識ある中国系アメリカ人のヤオ青年。彼は中国政府のエージェントになりすまして、北朝鮮への潜入を果たす。

 

 邦題の「米朝開戦」は、ちょっとミスディレクション。結局派手な軍事衝突は起きず、<ザ・キャンパス>やSGIPのエージェント、イラン人テロリストなどが闘うシーンが印象に残る。爆弾屋がメキシコ軍の105mm榴弾を手に入れ、米国大統領のリムジン<ビースト>を吹き飛ばそうとする手口は、とてもリアリティが高い。またヤオ青年の諜報活動は、非常に緻密に描かれる。

 

 実際に諜報の世界に生きていた人も「米国はSIGINTについては飛びぬけているが、国家全体として危機感が欠けているので、他の能力は(思ったより)低い」と言っていました。本書はまさに、そのような実態を小説と言う形で発表したものと思われます。とても長いのが難点ですが、引き続きシリーズを探してみます。