「COVID-19」の感染拡大が、ロシアでは顕著だという。ワクチン接種も進まず、医療の逼迫は必然だ。加えて悪性のインフレが経済を襲い、石油・天然ガスの値上がりで景気が良くなるというわけでもなさそうだ。プーチン政権の危機という説もあるが、米国と並ぶ1,500発以上の戦略核兵器を持つ「大国」であることに変わりはない。
本書は今年出たばかりの、ロシアのレポート。筆者の中村逸郎氏は筑波大学の人文社会系の教授。モスクワへの留学もあり、ロシアの現代史に通じている人だ。本書にはロシアの政治・経済の「闇」の部分が、ヴィヴィッドに描かれている。
冒頭、筆者はエリツィン政権の大統領補佐官(安全保障担当)だった人物にインタビューを試みた話を紹介している。1995年、米露が核戦争寸前までいった事件のことを聞いたのだが、質問が機微の部分に触れると形相が変わり「今、どの国にいると思っている?」と突き放された。ロシアでは「壁に耳あり、障子に目あり」ということらしい。
プーチン政権に始まったことではないが、政府の諜報網はいたるところにあり、下手な言動は出来ないのだ。最悪、暗殺される可能性もある。現に、
・2006年、人権抑圧を糾弾したジャーナリスト、射殺
・2019年、市民運動家、毒殺
など、毎年のように犠牲者が出ている。
まさに題名にあるように「信用できない国」であるロシアなのだが、それは政治の世界に限ったことではない。さもしい国であって、
・他人のポケットに手を突っ込んで生きる。
・交渉事は、嘘から始まる。
・いいところとは、ロシア人がいないところ。
なのだという。筆者も、空港で、バスの中で、タクシーで、道を歩いていて、スーパーのレジでさんざん煮え湯を呑まされている。政治信条だけでなく、その品性から見れば「北方領土など戻ってこないに決まっている」わけだ。
面白かったのは「偽プーチン説」、一時期首相職に退いていたプーチンだが、その間に暗殺もしくは病死して、大統領に復帰した時は偽物にすり替わっていたという。それを離婚した前夫人が証言しているともいう。彼女は「離婚しなければ殺されていた」と訴えている。
本書の記述が正しければ、習大人の国よりずっと怖いですね。現にロシア人自身が、ロシアに生まれたことを呪っているらしいから。