新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

平壌から見る世界情勢2018

 本書は2018年に発表された、ジャーナリスト柏原竜一氏の国際情勢論。「北朝鮮第三次世界大戦」というタイトルを見てかってきたのだが、内容は「世界大戦には至らないよね」というものだ。これまで他の書や情報源から聞いている話が3/4ほどを占めるし、特に目新しい分析があるわけでもない。ただこの時点での各国の狙いや課題などが整理してあって、興味を惹くところはいくつかある。

 

北朝鮮

 半島統一という看板はともかく、幹部連中は保身で頭が一杯。かつては中国から核兵器開発支援(瀋陽から核爆弾を持ちだしたとの説も)を受けて、核・ミサイル開発に注力。今はロシアの支援で水爆まで保有するようになれた。イランとのパイプも太く、核開発ではイランをリードできるほど。

 

◇米国

 キッシンジャーらが構築した「秘密の米中同盟」が期限切れになり、対中姿勢のトランプ政権が誕生。ロシアの介入よりバノンが仕掛けた「クリントン・キャッシュ」宣伝の方が効き大衆は富裕層にキバを向いてトランプの「プロレス型政治」に熱狂している。ただ軍事力は、予算削減や士気低迷でじり貧。

 

◆中国

 (公表されるGDPとは異なり)経済が停滞、地方政府もゾンビ企業も負債で身動きが取れない。「一帯一路」で、各国に投資をエサに労働者まで押し付けることで、なんとか命脈を保っている。北朝鮮は正直切りたいのだが、崩壊されて難民が押し寄せるのが一番困る。

 

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◆ロシア

 韓国との関係を改善、韓国・北朝鮮からシベリア鉄道に至る独自の「一帯一路」に似た構想を持つ。中国と縁切れになった北朝鮮を支援しているのもその一環。中東ではイランと結び、スンニ派枢軸の後ろ盾となって存在感を増している。

 

◇韓国

 政府負債はさほどでもないが家計の負債はGDPの1年分にも達し、ほとんどの家庭が債務に悩まされている。中国よりもずっと経済崩壊は近いと思われ、とても「統一」で北朝鮮を財政支援できない。むしろ破綻国家韓国が併合されるかも。

 

 ちょっと極端な話もあるが、北朝鮮がいかに核・ミサイルを実戦配備しても、米国がこれを先制攻撃するのはないと思われる。北の側から戦端をひらくのは偶発事故を除けばあり得ない。だから本書のタイトルはミスディレクションである。

 

 特に面白かったのは中国共産党100年の2021年に、習大人は台湾侵攻・統一を果たすとあること。これができないと三期目はないそうです。さて・・・。