2022年発表の本書は、認知科学を専門とする石川幹人博士のフェイク史。フェイクニュースが社会全体の脅威になりつつある今、科学的な対応が可能かを知りたくて本書を読んでみた。
「協力するサル」である人類は、食糧の少ない草原で生きるため、50~100人のコミュニティを作って暮らしていた。Society1.0、狩猟採集社会である。知恵のあるリーダーのもと、限られた食糧を最大限に活かすためにコミュニティ内でのフェイクがご法度だった。繰り返せばコミュニティを放逐されて、野垂れ死ぬことになる。
しかし文明が進んで余裕ができると、フェイクを操っても死には至らなくなった。また言葉や文字の発達はフェイクを強化し、時を超え領域を超えて蔓延させることも可能になった。そこで、
・見かけのフェイク
・共感に訴えるフェイク
・言語が助長するフェイク
・自己欺瞞に巣食うフェイク
・科学の信頼を利用したフェイク
・誤解から生じるフェイク
・結束を高めるフェイク
が産まれてきた。これらのものを全て見抜くことはできない。本能的に人間同士は(同じコミュニティなら)信頼し合うからだ。個人が単一のコミュニティに属するわけではなく、個人主義がより大きくなっても、その本能は残っている。またデジタルメディアが発達した現代では、フェイクは信じられない規模と速度で拡散する。これに対抗する手段は何か?筆者の結論は、
・戦術的にいくつかのフェイクを見抜く手法はある
・オープンデータ化が進み、ファクトチェックをするサイトも出てきた
・上記の本能が現代社会とミスマッチになっていることを自覚すればよい
とやや楽観的だ。進化心理学という聞きなれない学問について、多くの人が理解を示せば未来は明るいとあるが、ちょっと説得力に欠ける。まあ、ファクトチェックの団体が増えていることはいいのですが、一方で従来それを担ってきた良心的メディアが衰退しています。うーん、満足できる答えは得られませんでしたね。