新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

パンデミックを予言した小説

 2020年4月に出版された本書は、「COVID-19」のパンデミックを予言した小説。作者のローレンス・ライトは<ニューヨーカー誌>のスタッフライター。ジャーナリストとして、ノンフィクションや脚本を手掛けたが、1998年の映画「マーシャル・ロー」の脚本を書き、この映画は<9・11テロ>を予言したものと言われた。そして本書も世界を覆うパンデミック小説で、あまりにもタイムリーな発表時期となった。

 

 米国CDCで感染症対策班を率いる、ヘンリー・パーソンズとその一家が主人公。インドネシアコンゴリ収容所で発生した感染症は、感染力が強く死亡率が8割に上るというもの。急派されたヘンリーの活躍で収容所外への蔓延は防げたと見えたのだが、一人の感染者がメッカへ巡礼に出かけてしまった。

 

    

 

 サウジの保健相マジド王子は医師で、ヘンリーの友人。2人はサウジ内にこの「コンゴリウイルス」を封じ込めようとするのだが、保菌者を含む300万人の巡礼者は母国に戻って行ってしまった。また渡り鳥も、ウイルスを世界に広めていく。半年経って、世界で数億人が犠牲になった。米国でも大統領が感染し倒れるなど、社会システムが不安定になった。

 

 そこにロシア発のサイバー攻撃が襲い、米国は大混乱に。ヘンリーの妻ジルや子供たちも、エネルギーや食糧の不足に悩まされる。ジルの母親は認知症の施設にいたのだが、ケアする人が来られなくなり死んでしまった。

 

 ロシアでは不思議なほど感染者が少なく、プーチン(実名で登場)はウクライナバルト三国への侵攻を企てる。これを察知した米国情報部高官の会話が面白い。

 

少佐「プーチンは本当に侵攻するでしょうか」

将軍「もしスターリンだったら、どう思う?」

少佐「するでしょう」

将軍「プーチンはそういう男だ」

 

 中国や日本の動向は全く語られないのですが、見事なパニック予言小説でした。ちょっと冗長ですがね。