新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

帝国主義プーチンの後を見据えて

 2022年発表の本書は、ジャーナリスト大野和基氏が世界の知性にインタビューしてまとめたもの。PHP新書で何冊も紹介したのだが、宝島社新書からも出ていた。テーマはプーチンの戦争とその後。6名の識者に加え調査集団「ベリングキャット」創始者エリオット・ヒギンズの意見が紹介されている。識者たちの意見は、

 

・この戦争は決してロシア市民が起こしたものではない

プーチンを勝たせてはならない

核兵器を使わせてはいけないし、日本は核武装すべきではない

・ロシアの状況を見て、習近平は台湾強攻を躊躇する

 

 という点で一致している。しかし、例えば民主主義の現状認識などについては意見が異なる。印象に残った言葉を紹介しよう。

 

・富の源泉がモノから知識に移っているので、領土を奪う意味が薄れた(歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ)

プーチンは社会の発展より外部圧力から市民を守る「永遠の政治」を実施し、手法は帝国主義になった(歴史学者ティモシー・スナイダー)

 

        

 

地政学的要素が脱グローバリゼーションを促すが、中国をロシア側にやってはいけない(経済学者ポール・クルーグマン

・ロシアはヨーロッパであるべきで、ロシアの民主化なくしては世界平和は訪れない(経済学者ジャック・アタリ

・世界人口の多くが非民主主義国家に住み、民主主義は退潮。ここで負けるわけにはいかない(政治・社会学者ラリー・ダイアモンド)

NATO拡大はプーチンの戦争の一つの動機にすぎず、米軍の駐留は平和に寄与する(国際政治学者ジョゼフ・ナイ)

 

 ウクライナ侵攻を予測した人も、出来なかった人もいる。民主主義について楽観的な人と悲観的な人、意見はさまざまだ。ダイアモンド教授が、ハードパワー/ソフトパワーの中間に「シャープパワー」が存在すると言ったのは目新しい。選挙へのSNS介入やフェイクニュース攻勢はこれにあたるらしい。

 

 「ベリングキャット」はオープンソースから情報を集めて分析する調査機関、ファクトチェックを行うようだ。面白い意見をいろいろ聞けましたよ。