新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

浅見刑事局長、防衛産業不正に挑む

 本書は、多作家内田康夫の「浅見光彦もの」。1998~99年にかけて<文芸春秋>に連載されたもの。いつもは光彦の厳しいお目付け役ながら、ちょっとしか出番のない兄浅見陽一郎刑事局長が大活躍する。

 

 美しい利尻富士や美味しいウニなどの観光資源を持つ利尻島、光彦はある特命を帯びてこの島にやって来た。二ヵ月前にこの山道で凍死した富沢という男、彼は電子機器メーカー「西嶺通信機」の開発責任者だった。この企業は防衛産業の大手「芙蓉工業」の子会社で、やはり防衛関連機器を防衛庁に納入していた。

 

 光彦は兄陽一郎を通じて、前の防衛庁長官、今は北海道沖縄開発庁長官を務める秋元議員から依頼を受けた。利尻島出身で、終戦をサハリンで迎えた秋元は、地元に思い入れを持っている。サハリン時代の知り合いの息子富沢のことも気にかけていて、警察が自殺と見ているこの事件を探り直して欲しいとの依頼だ。

 

        

 

 発端からして大きな事件だと予感させ、おなじみの「光彦が地元警察に拘束されて・・・」のシーンもない。陽一郎が予め同期の北海道警本部長にだけは、内偵を知らせてあるからだ。偶然富沢の不倫相手の娘を知った光彦は、富沢が「バレるかもしれない」と漏らしていたことと、彼女に最後に送った音楽CDを手に入れる。

 

 事件は芙蓉グループ防衛庁、特に調達本部との癒着が見えて来て、そこにテポドンが来襲して次期防空システムの開発にスポットライトがあたる。防衛庁の不正の証拠を掴めない陽一郎は、「西嶺通信機」の不正経理からつつき始めるのだが、防衛庁側も逃げの手を持っていた。

 

 確かに大きな広がりを見せるのだが、作者自身のあとがきにあるように「連載を始めた時はどこに行くか分からない」ので、残念ながら迫力不足。作者の言う自衛隊の欠陥にしても、昨年の防衛三文書改訂でようやく対策の緒につくほどの大問題。問題提起がメインなら、もう少し書き方はあったと思います。ただ、浅見兄弟の連携プレーは見事でした。