新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

印象の薄い名探偵

 「アリバイ崩し」というミステリーのジャンルはクロフツの「樽」に始まったものの、発達したのはユーラシア大陸の反対側の島日本でだった。先日紹介した松本清張「点と線」森村誠一「新幹線殺人事件」など名作が生まれ「時刻表もの」というジャンルを形成した。ただトリックには限りがあると思われ、この2人の作家もこの手の作品を量産したわけではない。

 

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 斎藤栄ほかの作家も時刻表ものは発表したのだが、これを徹底的に追求した作家もいる。それが本書の作者津村秀介である。雑誌の編集者や新聞の顧問などジャーナリストの経験が長く、レギュラー探偵浦上伸介は「週刊広場」を中心に活動するフリーのルポライター、相棒で先輩の谷田実憲は「毎朝日報」の記者だ。
 
 本書の事件は、アメリカ在住の日本人富豪/遺産相続者が殺されたと思われるものだ。死体は出ていないのだが、殺害現場は伊豆地方(熱海から伊豆北川)と見られ、容疑者は同じ温泉でも北陸の片山津にいたというアリバイがある。
 
 アリバイ崩しの名探偵浦上伸介は、バッグに一眼レフと時刻表を詰めて伊豆と北陸を往復する。被害者のものと思しきハンドバックが熱海で見つかるのだが、容疑者のアリバイは崩れない。
 
 このシリーズ、真野響子橋爪功主演で2時間ドラマとしてたくさん放映されたので、覚えておられる方も多いと思う。作者がジャーナリストゆえ、ルポライターと新聞記者を探偵役にしたのだろうが、容疑者からアリバイを聞くシーンなど、ジャーナリストでは限界があるだろう。TVドラマでは探偵役を弁護士/事務所に設定していた。
 
 面白くて20~30年前にたくさん読んだものだが、名探偵浦上伸介の印象が希薄である。将棋好き、酒好きで独身の30歳前後、というのではインパクトがない。内田康夫浅見光彦のように、探偵自身が有名になることは無かっただろう。作品としては面白かったのですが、レギュラー探偵の印象が薄かったのは残念ですね。