新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

本書の発表から1年半

 本書は、以前「令和の国防」「歴史の教訓」を紹介した元外交官兼原信克氏の近著。2022年末の出版で、内容としては紹介した両著書をなぞるものとなっている。前2作はそれなりの関心を持って読んだのだが、今年初め「正論」の会合に出席して、僕自身ちょっと視点が変わった。

 

自衛隊は今のままでは闘えない、予算も少なすぎる

国対政治が反撃能力保有や核共有の議論を封殺

・学術会議のカベが立ちはだかり学術予算が国防に寄与しない

 

 などの主張に異論はないのだが、その根底にある何かにひっかかりを覚えたのだ。そのひっかかりが本書を読んではっきりした。

 

 本書のテーマは「中国にどう対峙するか」である。延々日本と中国の近代史を語り、自由主義・民主主義を構築してきた日本に対し、中国は共産主義という仮面をかぶった独裁体制にしかならなかったと言っている。これは事実だ。

 

        

 

 問題はここからで、大国中国が(日本同様)自由主義・民主主義を確立するまで、日本は中国と対峙して堪えねばならないとあることだ。これはバイデン政権が「民主主義対専制主義」を揚げてサミットを開いたことに通じる。国際的に見れば筆者やバイデン大統領が考える民主主義を構築できている国の方が圧倒的に少ない。

 

 その国にはその国なりの「民主主義」があるというのが恐らく正しく、アフガニスタンスーダンの現状を見れば理解してもらえるだろう。中国が日米欧のような民主主義に移行出来るような気が、僕にはしない。

 

 ただ本書に見るべきところがないわけではない。

 

・経済安全保障のために、日本の技術を守り育てよ

・宇宙空間、サイバー空間での戦争に備えよ

・統合された危機管理体制を構築せよ

 

 とあるのは全くその通り。筆者はこれらの議論が一部メディア、野党、学術会議などの抵抗勢力で阻まれていると嘆くのだが、出版から1年半経ってその障壁はかなり崩れたと思う。

 

 それらに異論は挟みませんが、筆者に近い政治家の皆さんが「中国の民主化」を思い描いておられるとすればちょっと問題ですよ。無理なものは無理!