新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

復讐を誓うレディ・サラ

 1989年発表の本書は、冒険小説の雄ジャック・ヒギンズのノンシリーズ。これまで「鷲は舞い降りた」などの戦記物や、ファーガスン准将やショーン・ディロンらのシリーズを多く紹介しているが、作者にはノンシリーズの傑作も多い。いろいろな意味でしがらみがなく、書きたいことを書けるからだと思われる。とはいえ作者ならではのモチーフはあって、本書でもマフィアやIRA、英国諜報部がからむ。脇役でだが、ファーガスン准将も登場する。

 

 事件のきっかけは、パリに遊学していた青年が犯罪組織の罠にかかって殺されたこと。組織は英国に死体として送れる男として、被害者を選んだ。組織の目的は麻薬の密輸で、検視解剖済みの遺体に麻薬を隠して英国へ持ち込んだのだ。しかし輸送中の事故で、陰謀が発覚し青年の継母にあたる米国人レディ・サラが組織への復讐を誓ってロンドンにやってきた。サラは大統領にも近い人物で、英国情報部はサラに護衛役を付けることにした。選ばれたのがSASを退役したばかりのイーガン曹長

 

        

 

 一方、組織の実行担当ジェイゴも、元軍人の腕利き。この2人、戦闘力でも抜け目のなさでも、容赦なく人を殺せる性格もよく似ている。2人共軍人時代に敵兵を冷酷に殺して問題を起こしたことまで同じだ。

 

 組織のバックには、IRAに対抗するアイルランドの過激派やシチリア・マフィアもいる。サラとイーガンは、パリやベローナ(シチリア島)まで巡って、組織の実態を暴こうとするが、ジェイゴ達も2人を見張っていた。

 

 解説では1970年代後半から作者の不調の時代があって、それが本書で復活したと賞賛しています。確かにイーガンやジェイゴの矜持は立派だし、バックで蠢くファーガスン准将たちもそれっぽい。復讐心はあっても暴力に縁の薄いサラをイーガンたちが鍛えるシーンも印象深い。

 

 シチリアの諺で「復讐は地獄の季節」というそうです。ヒギンズ作品、まだ探しますよ。