以前「テロ資金根絶作戦」などを紹介した、SAS出身の作家クリス・ライアン。60冊余りの作品があるが、多くは軍事スリラー。「テロ・・・」のマット・ブラウニングのように複数の作品の主人公を務めるヒーローものも多いが、本書(2005年発表)は単発もの。主人公のジョシュ・ハーディングもSASの(恐らく)下士官。
アフガニスタンでアルカイダ幹部のアジムを狙撃スコープに捉えたジョシュだったが、上司の手違いで狙撃できずに終わってしまう。アジムを狙い続けるジョシュだが、次の作戦は、なんと同盟国の米国アリゾナ州・・・。
アリゾナ砂漠で意識を取り戻した彼は、首と脚を撃たれており、自分の名前も分からなくなっていた。傍らには射殺された少年の死体も。出血多量で死ぬかと思われた彼だが、付近に住む女医ケイトに助けられて命を取り留める。人里離れた土地で、ケイトは退役軍人の父マーシャルと暮らしていた。
徐々に体力が回復するジョシュだが、記憶は戻ってこない。しかしマーシャルの武器庫に入った彼は、易々と軍用拳銃を扱って百発百中の試射を見せる。その英国なまりや身のこなしを見て、マーシャルは「お前はレジメント(SAS)だな」と言う。
アリゾナには影響がないのだが、そのころ英米のいろいろな都市で大停電が頻発(原題はBlackout)する。大手エネルギー制御会社<ポーター・ベル>の制御機構がハッキングされて送電できなくなるのだ。ハッカーは、無作為とも思えるタイミングで都市を選び、混乱を巻き起こしている。
少年の死体を見つけたからだろう、地元警察は付近を捜索して「現場から消えた負傷者」を探していることが分かる。さらにサバイバルキャンプで暮らす軍人崩れ、<ポーター・ベル>に雇われたヤクザ、そしてアジムまでが現れジョシュを付け狙う。武器もほとんどなく傷も癒えないジョシュは、ヤクザたちやアジムに捕まって拷問を受ける。死んだ少年の相棒ルークの居場所を言えというのだが、ジョシュの記憶は戻り切っていない。
どうもルークたちは<ポーター・ベル社>の機器を乗っ取るワームを開発したらしく、それをアジムらのテロリストが狙っているようだ。最後に覚醒したジョシュは、徒手空拳でヤクザやアジムに対峙する。
さすがはクリス・ライアン、面白いスリラーでした。2012年の同名の書を先取りしたような作品でした。