2018年発表の本書は、精神科医岩波明氏の殺人犯の心療録。主に4つの事件について、
・殺人犯の生い立ち、生活環境や教育事情
・事件の背景や、それに至るまでのトラブル等
・診療をしてみての殺人犯についての分析
が示されている。
◇宝石商を射殺した童話作家武井遵
大量の粗末な偽札をつくり詐欺を働き、最後に宝石商を殺してその商品を奪ったという事件。筆者は武井を「典型的な捕食者サイコパス」だという。父親は韓国人の詩人で詐欺師、母親は日本人で「新橋の女傑」と呼ばれていた。子供の頃から「朝鮮の子」といじめられ、少女姦や死体嗜好を強めていく。いくつかの犯罪で収監された後、この事件を起こした。衝動的でずさんな犯行だが、逮捕されてからは冷静そのものだった。
◇TV騒音に腹を立て5人を刺殺した大学生M
下宿人だったMは、大家一家のTVの音や会話で眠れないとして、たびたびトラブルを起こしていたがついに犯行に及んだ。統合失調症で発達障害があり、中学時代は平均的な成績だったが、高校で徐々に成績は下がった。騒音や異臭(確かに蓄膿症)を訴え続け、両親は精神科を受診させようとしたが激高した。私学の夜間部には合格し、下宿していた先で事件を起こした。精神鑑定後、不起訴となった。
◇書店で2人の女性を死傷させた青年T
通りすがりに全く面識のない書店店員らを死傷させた事件だが、Tは両親からネグレクトを受けて育った。子供の頃からIQは50ちょっと。まともに「読み書きそろばん」ができない。加えててんかんの持病もあった。犯行動機は「両親を困らせたかった」と述べている。
成績優秀だが目立たない生徒だった豊田は、東大理Ⅰに入学し理学部物理学科に学んだ。博士課程まで進み、大学研究者を目指していたのだが「オウム神仙の会」に入会して退学する。事件後の証言などから「分裂病質人格障害」が疑われた。成績が良かっただけに、課題が目立たなかったようだ。