新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

圧倒的な1,000ページ(前編)

 以前「ゼロ」を紹介した、オーストリアの作家マルク・エルスベルグのデビュー作が本書。正面から重要インフラに対してのサイバー攻撃を描いた作品で、1,000ページを長く感じさせない迫力がある。インフラへのサイバー攻撃というと映画「ダイハード4.0」が有名だが、こちらはSFっぽいフィクション。「ブラックアウト」はリアルなサスペンス小説だ。

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 日本でもオリンピック/パラリンピック2020に向けて、重要インフラのセキュリティ対策は話題になっている。先行事例としては2012年のロンドン大会、これを契機にイギリスのサイバーセキュリティ性は高まったし、産業も興隆したと伝えられる。
 
 その後のソチ大会、リオデジャネイロ大会、平昌大会については詳しい話は聞けていないが、確実に攻撃者が力を付けてきていると思われる。例えばロシアの関与が疑われるウクライナのブラックアウトも、2015年冬はDDoS攻撃を中心とした非機能化だったが、1年後には精密なマルウェアを仕込んでのものだったという。
 
 本書の発表は2012年、東日本大震災とそれに伴うF1(福島第一)の事故経緯や被害をじっくり調査して書かれている。2012年の時点でイタリアとスウェーデンにはスマートメーターが完備しているという前提で、物語は始まる。スウェーデンはともかくイタリアってホントかと思うのだが、まあ信じておこう。ヨーロッパ全域へのエネルギー供給は、東方のロシアからのものが政治的に不安定である。北は北極海、西は大西洋だ。北部アフリカに太陽光発電や太陽熱発電を設置して電力供給源とする場合、イタリアは重要な中継地にあたる。
 
 スマートメーターに仕込まれたマルウェアによって、イタリアとスウェーデンで大規模停電が発生。その他ドイツやフランスの発電所も不安定になり、送電線鉄塔の爆破も相次ぐ。ほぼヨーロッパ全土を巻き込んだ大停電は、復旧の試みが成されるものの第二次攻撃によってより深刻な停電に進化する。
 
 ガソリンスタンドは電気がなく、ガソリンを汲み上げることができない。食料の供給ラインも水道も動かず、近代的な生活は破壊される。やがては暴動や略奪に発展し、10余日の停電で人間は動物のように行動するようになる。このあたりの描写、多少くどすぎるかもしれないが迫力はある。
 
<続く>