新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

SAS出身の覆面作家

クリス・ライアンという作家は、イギリス軍の特殊部隊SAS(Special Air Service)で狙撃手の務め、湾岸戦争イラクでの戦果によりミリタリー・メダルを授与されている。湾岸戦争では、スマートな爆弾が使用され目標に向かって軌道を修正しながら命中させる映像が耳目を集めた。

 
 しかし当時の技術では、地上にいる誘導員が赤外レーザーなどを当てて、その反射光をめがけて爆弾やミサイルが飛んでゆくのが確実だった。彼は、そういう地上誘導員(当然目標近くに潜伏する必要がある)を務めたのではなかろうか。その後除隊し、SASものをいくつか書き、その迫力ある描写でベストセラー作家になった。

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 クリス・ライアンというのも本名ではなく、覆面作家の一人だ。特殊部隊ものの作家に、アンディ・マグナブという人がいるが彼も覆面作家だ。名乗ってはまずい経歴も、当然あるのだろう。ただクリス・ライアンの写真は公開されていて「覆面作家」というのも、何か変だ。もっとも、写真も本物かどうかは分からない。
 
 さて本編だが、元SAS隊員マット・ブラウニングがMI5(Military Intelligence Section 5:国内保安維持のための保安局)の誘いを受けて、アルカイダの資金を強奪する話である。地中海で輸送船を襲い、10名足らずのアルカイダを排除し、金の延べ棒やダイヤモンドを奪うのがミッション。奪ったものはメンバーで山分けしていいが、MI5は準備は手助けするが公式には関与せず、報酬も払わないという条件。
 
 マットを含めて集められる元SAS隊員は、皆生活上で困った問題を(特に金について)抱えている。作中に「SASは実に素晴らしいことを叩き込んでくれる。忍耐・持久力・勇気ではだれにもひけはとらない。だが、一番重要なことの授業はない。外の世界で生き抜く方法は教えてくれない」とある。
 
 本編のミソは、SAS上がりの3名にミッションの関係でギャングと元IRAが加わっていること。前者は強奪する資金が金やダイヤモンドなのでこれを闇ルートに流して現金化するため、後者は船の上の頑丈な金庫を(中身を壊さないように)爆破するためにチームに加わる。
 
 SASとIRAは仇敵である。目的(カネ)のために妥協してミッションを始め強奪は成功するのだが、どこからか情報がもれメンバー5人にアルカイダの暗殺者が迫るというのが後半。原題の"Greed" は、大金がからむと兎角争いが起きやすいという意味がある。暗殺者との戦いの前に、メンバー内の疑心暗鬼がサスペンスを盛り上げている。人並み外れて強力な男たちだが、もろいところもある元SAS隊員を主人公にした佳作である。
 
 若いころから専念しないとプロになれない職業では、どこでも同じようなことかもしれない。僕のようなIT屋も若いうちは重宝される。やがて研究開発の場を離れると、普通のサラリーマン生活には不適合になる者もいる。そんな思いを感じながら読み終えた。