新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

東京~タヒチ間6,000マイルのアリバイ

 1973年発表の本書は、多作家西村京太郎の初期作品。70年代に作者は「消えたタンカー」など海にまつわるシリーズを発表していたが、本書はその中でも白眉と言える出来栄えである。

 

 32歳のヨットマン内田は、25フィート級のクルーザー<マーベリックⅠ世号>で、無寄港世界一周を果たした。一躍英雄となった彼は、海ビジネスに乗り出す商社をスポンサーに付け、カネも美女も手に入れる。しかし新婚早々、彼は交通事故で死んでしまった。その胃の中から青酸が見つかり、殺人事件となって十津川警部補が担当する。

 

 十津川は30歳の若手警官、自身もヨットマンであり思いを持って捜査にあたる。傲慢になっていた内田の周辺には、カネをせびられ持て余した商社、愛人の存在を知る新妻、世界一周の成功を嫉むライバル、偉業に疑問を持ち始めるマスコミなど、怪しげな人物が蠢く。

 

        

 

 内田人気を最大限利用しようとした商社は<マーベリック>の名を冠したクルーザーを開発し、それを参加させるヨットレースを企画していた。東京~タヒチ間6,000マイルのレースで、ライバル企業に勝利する計画だ。

 

 レースが始まって数日たち、内田の事件が起きたわけだ。十津川は内田に毒を与えた容疑者を絞り込んでいくが、内田が毒入りカプセルを渡される前にレースは始まっていて、最大の容疑者にはアリバイがあった。

 

 クルーザーの装備やレースの準備、その中に隠された犯人の細かなトリックが秀逸。このころの作品は実に手の込んだもので、最後の50ページの十津川の推理と犯人の自供は迫力満点といえる。松本清張の「火と汐」のトリックを逆用してアリバイを仕立てる犯人の工夫と、それを上回る十津川の罠。米英の30年代本格ミステリー黄金期の作品と比較しても、遜色のないものだ。

 

 見事なアリバイ工作に比べてちょっと残念なのは、犯人があまりに簡単に自供したこと。犯人としては、犯行をやり切ったという満足感があったのかもしれませんが。