新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「このミス大賞」の隠し玉賞

 2010年発表の本書は、宝島社が主催する「このミステリーがすごい(このミス)大賞」で隠し玉賞を受賞した作品。作者の七尾与史は、その後「死亡フラグシリーズ」4作を始め、40作ほどを発表。本書と「ドS刑事」の2作が映像化されている。

 

 この賞は新人作家の登竜門として(大賞賞金1,200万円)知られているが、あまり正統派ミステリーが集まる印象がない。本書も少し軽めの作品。テーマは「事故に見せかけて依頼された目標を殺害する殺し屋」で、殺し屋が「死神」と呼ばれるなど興味深い設定ではある。しかし主人公(と言っていいだろう)崖っぷちルポライター陣内がクビをかけて「死神」を追う姿や、登場する松重(!)というヤクザ、TVドラマをほうふつとさせるステレオタイプの刑事など、全体がミステリーのパロディに見える。

 

        

 

 陣内が頼る天才的な人物本宮先輩も、なんとなく名探偵のカリカチュアのイメージだ。「死神」という殺し屋は、依頼を受けるとターゲットのことを徹底的に調べ上げ、その日常の中に罠を仕掛ける。ヤクザの親分は、洋物のポルノが好きで自宅でそれを楽しんでいる時に、転倒して頭を打って死んだ。陣内は親分を殺されたかもしれないと考える松重と一緒に、親分の身辺に張り巡らされた罠を探す。

 

 親分の命を狙ったヤクザは、松重との後継者争いのライバルらしい。その男は問い詰められて、親分と松重の2人共を殺そうとしたと白状する。故郷に逃げ帰ることにした松重たちだが、「死神」はそこにも罠を張っていた。

 

 懸賞応募時には、規定上限の600ページほどの分量。審査員は「無駄に長い」として大賞にしなかった。その後ダイエットして350ページに収まったのだが、僕にはまだ「無駄が多い」印象がある。どうしても悪ふざけが目につくのですが、作者の書きたかったのがそれなら仕方ないですね。