新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

生活インフラ維持、3つの道

 2022年発表の本書は、シリコンバレーのAIベンチャー「フラクタ」CEOの加藤崇氏が、2019年末から<Foresight誌>に掲載した「水道崩壊」という連載をまとめたもの。地中の水道管の、材質・敷設時期・土壌の性質などのデータから劣化具合を推定(シミュレート)して、更改優先順位をつける技術を活用している。

 

 米国などで実績を積み、日本の自治体でも採用するところが出てきた。日本は水道から水を直接飲める珍しい国で、地球17周分の地下埋設水道管がこれを支えている。水道管の法定耐用年数は40年、これを越したものも1/4以上更改されず使用されているのが現状。他の先進国でも課題は同様で、

 

米国:日本よりさらに多くの水道事業者が点在していて、個別に改善を図る

英国:完全民営化をしたゆえに種々の問題が噴出して再公営化を求める声が上がる

 

 状況にある。

 

        

 

 いずこも生活インフラの維持コストが足りなくなっているが、対策には3つの方法がある。

 

1)広域化による間接経費の削減

2)料金の値上げ

3)修繕・更改費用の見直し

 

 筆者らは、3)の道を上記の技術革新によって進めようとしているわけだ。このほかに「民営化」によってコストを削減する試みも多いが、やるべきことは変わらないのにコスト削減を優先させるとサービス低下や「崩壊」がおきかねないと本書は警告する。中には不採算を訴えて料金値上げを強行したり、水道会社そのものの売買で利益を得る「悪魔のような事業者」が跋扈するのだ。

 

 十分に事業価値を認識されていない水道事業が、自治体から「悪魔」の手に渡らないようにするためにも、「フラクタ」は水道管から水道事業全体を見える化することに務めているという。本書は、米国カリフォルニア州の実績から、日本の(目覚めた)自治体の努力などを紹介してくれた。

 

 テック企業の話かと思って読み始めたのですが、内容は公共性の高いインフラ維持のことでした。僕としては「悪魔」ではない民間企業(*1)もいることを訴えたいです。

 

*1:本書でも紹介されている産業用水の栗田工業