新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

そんな時代も~あったねと

 僕の子供の頃は「男子厨房に入らず」などと言われ、台所は女性陣にお任せするのがしきたりだった。本書が最初に出版された1981年(僕が社会人になった年)にもなると、核家族化・都会の一人暮らしなどが増えて来て、男性も料理をするのは珍しいことでなくなっていた。現に僕も30歳前にはアパートで独り暮らし、見よう見まねで料理をしていた。

 

 著者の玉村豊男氏は、観光案内や翻訳業を経てエッセイストになった人。「パリ、旅の雑学ノート」などの著書がある。1945年生まれなので、僕より1世代ほど先輩にあたる。僕の親父(1927年生まれ)くらいになると、料理など全くできなくても暮らせたのだが、著者のころには料理のひとつもできないと、生活に困ることもでてきた。

 

 本書はそんな「困る人」やその予備軍に対して、著者自身の苦闘の記録も交えながら<メンズ・クッキング入門>を記したもの。冒頭クレーマー氏(筆者の分身)が、台所の入り口にたたずんでいるシーンで幕が開く。

 

・ワイフがいない

・給料日前で外食にも行けない

・見つけたのは冷蔵庫の脇に落ちていた古くて固くなった食パン1枚

 

 で、どうやってサバイブするかというシミュレーションである。

 

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 回答は冷蔵庫の中の卵やミルクを使って、古パンを<フレンチトースト>にするというもの。窮地を脱したクレーマー氏だが、これをきっかけに料理への挑戦を始める。「男の料理」というと、材料や道具、技術に拘り、高級なものを目指すガイドが多い中、本書はもっと実用的なアドバイスをしてくれる。

 

・道具に拘ったりするな、包丁など1~2本あれば十分

・とにかくまずスーパーに行って、食べたそうなものを買ってこい

・刺身用のサクを買ってきて、自分で切ってみる。これでも立派な「料理」

・この料理を作るために○○と××を買うのではなく、○○と××があるからこういう料理を作るという発想

 

 著者は「女の自立の前に、男自身の自立が必要」と説く。今では当たり前の話なのだが、1981年当時は新しい主張だったように思う。それは著者が欧米通で、かの国の男性が「一番肝心な料理は、男がする」のをたくさん見てきたからだろう。X'masのターキーを切り分けるのは家長の仕事、これは狩猟民族の伝統ということらしい。

 

 いつから本棚にあった本なのかもわかりませんが、「そんな時代も~あったね」と思い出させてくれました。