デジタルを始めとする先端技術が、社会を変えつつある。スタートアップ企業が価格破壊や価値創造で、業界地図を塗り替えることも珍しくない。米国のニュース専用放送局CNBCは、毎年業界構造の破壊者(Disrupter)たりうる企業50を紹介していて、本書はその2019年版をベースにしてイノベーションへの着眼点や事業化のコツを解説したもの。
著者斎藤徹氏は30年近く起業経験をし、数度会社を潰している。その経験を活かしてイノベーションと組織論を、新しい世代に説いている。著者によればこの50社のイノベーションは、4つのパターンに分けられるという。
1)顧客の特化
女性専用の投資相談や、Ⅱ型糖尿病のオンライン診断など
2)顧客体験のシンプル化
決済や与信の迅速化、手続き簡略化など
3)コストのフリー化
サービスは無料だが、多くのユーザを抱え広告収入を得る
4)コストのサブスク化
定額料金でユーザを抱え込み、サービスの充実を図る
微生物によってゴミからエネルギーを得るようなものを除けば、その大半はインターネットを活用したものだ。著者はインターネット経済が垂直統合ではなく水平分業であることなど、従来の発想を転換する必要性を説く。
またトラブルの事例も挙げ、UberEatsが宅配したつけ麺が液漏れを起こし、発注者・配達者・レストラン・プラットフォームの責任論が難しかったことや、株式売買(無料)サービスのRobinhoodが顧客情報を売って収益をあげていたことが紹介されている。加えて「新技術導入促進」のヒントもあった。微生物で土壌改良をするIndigo Agは、導入当初は持ち出しでスタートし顧客の収益が上がってから回収する方法を採っている。
起業・新事業開拓・社内DXの参考になる、事例・考え方・悩みどころが満載の本書だが、もっと面白い指摘もある。多くのスタートアップを見て「アルビン・トフラーのパワーシフト」は次の段階に入ったと筆者は言う。パワーシフトは、
暴力 ⇒ お金 ⇒ 知識
と進んできたが、今や「共感」がそれらに加わろうとしているとのこと。とにかく「サスティナブル」なものでないと、今後は受け入れられない。GAFA型の「ある分野独占」の時代も終わりつつあると筆者は言います。面白いヒントが詰まった1冊でした。