新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

21世紀キリスト教の危機

 本書は2003年発表、宗教象徴学の専門家ラングドン教授を主人公にしたシリーズの第二作。作者のダン・ブラウンは、米国の英語教師から転じた作家。両親・妻ともに数学や宗教・芸術に造詣の深い人たちである。前作「天使と悪魔」でヴァチカンの危機を救ったラングドン教授だが、その後も秘密結社「シオン修道会」を追っていた。この結社の総帥には過去、ボッチチェリ、ダ・ヴィンチビクトル・ユーゴーらが名を連ねていて、ヴァチカン、いやキリスト教全体を揺るがす秘密を握っているらしい。

 

 結社の秘密を暴いた論文を脱稿してパリの会合に顔を出していた教授は、ルーブル美術館長が館内で射殺された件で警察に呼び出される。老館長はダ・ヴィンチの<人体図>の格好に自らを当てはめて死んでいた。傍らには「ラングドン教授を探せ」との書置きが・・・。事件の最有力容疑者にされてしまった教授は、フランス警察暗号課のソフィーに助けられて官憲の手を逃れるが、彼女こそ老館長が育てた孫娘だった。

 

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 冒頭の人体図はじめ、フィボナッチ数列黄金比など、ダ・ヴィンチの多面な才能にかかわる手がかりが続出し、複雑なアナグラムに(特に日本の)読者は閉口するだろう。実はシオン修道会の秘密を狙っているのは、ヴァチカンにカネを出して宗教的地位を得た団体「オプス・ディ」。その黒幕の司教が放った刺客が、老館長らを殺し何かを捜し求めている。教授とソフィーは、その何かを求めてパリからヴェルサイユ、ロンドンを巡り、最後はウェストミンスター寺院で悪の「導師」と対決する。これらの街の地図もついていて、知った街が多かったのでリアリティがあった。

 

 マグダラのマリア、聖杯、キリストの血筋など、僕にはわかりにくい話が続くのだが、物語はスピーディな展開。3分冊(合計800ページ超)も苦にならない。次々に暴かれる登場人物の正体も意外なものばかり。確かに面白い話だったのですが、修道会の秘密が「キリスト教全体の危機」にはどうしても思えませんでした。不信心のゆえでしょうか?