新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

国境紛争を裁く委員の不審死

 先日横浜馬車道古書店を見つけふらりと入ったところ、最近見かけることのないパトリシア・モイーズの作品を3冊見つけることができた。古書店主も「モイーズ面白いですよね」と言ってくれた。今月から1冊/月のペースで紹介したい。

 

 1968年発表の本書は、以前紹介した「死の贈物」の直前の作品で、まだヘンリ・ティベットは主任ではない平警視。国境紛争の裁定機関「恒久国境訴訟委員会(PIFL)」は各国の外交官OBなど11人で構成されているが、皆高齢で直近に2人が亡くなっている。今抱えているアフリカの紛争について、A国支持の委員2人が亡くなってB国支持の委員との差は1人になってしまった。

 

        

 

 いかがわしい酒場のトイレで射殺されたギャンブラーの事件を担当していたヘンリに、妻のエミーの知り合いでPIFLの担当者ゴードンが、2老人の死を調べてくれと言って来た。とりあわなかったヘンリだが、担当事件の被害者が身分不相応なカネをもちながら高級ホテルでバイトしていたことを不思議に思って調べると、心臓麻痺で死んだPIFL委員にルームサービスする係だったことがわかる。

 

 さらにバスに轢かれて死んだ委員のケースで、事故だと証言したのが酒場のオーナーだったこともわかり、委員暗殺の疑いが濃くなった。しかし、ならばなぜギャンブラーは殺されたのか?次に狙われるA国支持の委員は誰か?酒場から逃げた付け髭にサングラスの男は何者か?魅力的な謎がに、ヘンリとエミーの鴛鴦探偵が挑戦する。

 

 やがて次に狙われるのはオランダ人クーツフェーン(原題のDUTCH UNCLE)の公算が高くなり、ヘンリとエミーは観光客を装ってオランダに渡る。しかし、老人は警護を断り出て行けと言う。

 

 このシリーズの面白さは、何といっても2人のかけあい。「鼻が利く」ヘンリに対し「あたしの鼻も」と明るく対抗するエミーが可愛らしい。エミーは顔を知られ過ぎている夫に替わり、不自由なオランダ語に悩まされながら大活躍をします。あと2冊、楽しみです。