新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

バスティーユで出会った3青年

 本書(1997年発表)は、以前「ウィーンの密使」「聖アントニウスの殺人」を紹介した藤本ひとみの、やはりフランス革命を背景にした作品。フランス革命についてはバスティーユ監獄の襲撃や、革命勢力(ジャコバン派など)の内紛、王政諸国の介入くらいしか僕は知らない。ナポレオンが台頭する1800年以降の歴史と比べると、革命の一番生臭いところの知識は少ない。

 

 本書は歴史小説だが、どこまでがフィクションなのかは分からない。大筋は歴史そのもの、登場人物もほとんど実在の人のように思う。3人の青年がバスティーユの監獄解放の場で出会い、その後共和国側と反政府軍に分かれて戦うことになる運命が縦軸だ。そこに諸国の介入、共和国内の軋轢、貴族と平民の確執、教会と革命勢力の対立などが横軸で、全体が織り上げられている。その3人とは、

 

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◆アンリ・ド・ラ・ロシュジャクラン

 侯爵家の長男で、バスティーユ事件の時は16歳のフランス軍少尉。貴族排斥の流れでお尋ね者として故郷を追われる。のちにヴァンデ地区の武装蜂起の指揮官となり、共和国に抵抗する。

 

◇ニコラ・ラザール・オッシュ

 平民出身でアンリ麾下の伍長(20歳)だった。親友ともいえるアンリと別れて共和国軍入りし、東部戦線で頭角を現して将軍になる。ヴァンデ地区の反乱鎮圧の司令官となって、アンリと対峙する。

 

◇マルク・アントワーヌ・ジュリアン

 14歳でバスティーユの現場に遭遇し、政治ビラを撒く少年論客ぶりを示す。ロベスピエールに見いだされて共和国の参謀役に抜擢される。ヴァンデ地区の反乱鎮圧に、苛烈なやり方で臨むよう将軍たちを督戦する。

 

 ジュリアンが若干14歳で「バスティーユの陥落より、王家打倒を目指せ」とするアジビラは、多くの人の目に留まる。ジュリアンは英国留学から共和国参謀となっても、貴族や反革命軍への苛烈な姿勢は変わらない。

 

 一方アンリは、王家のためと思いながら共和国の政治は「悪」だと感じて、農民一揆の指導者役を引き受ける。戦い方を聞く農民たちに、

 

1.俺が先頭でやることをまねろ

2.俺がひるんだら殺せ

3.俺が死んだら誰かを立て、アンリと名乗らせ一揆を続けろ

 

 という。勢いはあるが他に何もない彼らを指導するには、名言と言えよう。フランス革命の混乱期、ロワール河南岸エリア(ヴァンデ)の反乱をテーマにした本書、なかなか勉強になりました。