新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

発狂した判事と変わったビジネス

 1905年発表の本書は、以前<ブラウン神父もの>や「知りすぎた男」を紹介したG・K・チェスタトン初期の短編集。全く新しいビジネスを創造することで入会できる<奇商クラブ>についての短編6編と、短編「背信の塔」中編「驕りの樹」が収められている。<奇商クラブ>に登場するのは、英国でも一二を争う優秀な判事だったバジル・グラントが、突然法廷内で発狂し隠退した後の物語である。

 

 グラントはブラウン神父ほどの愛らしさはないが、分けのわからないことを並べ立てる点では同じ。わたしことスウィンバーン氏は、元判事に事件に付き合わされて閉口している。全く新しいビジネスというのが曲者で、他者の模倣や改良であってはならない。そんな難しいことを、6名の参加者は(場合によっては意図せず)やってのける。

 

        

 

 例えば「牧師はなぜ訪問したか」では、スウィンバーン氏は2人の奇妙な牧師がある人物を訪問して分けの分からないことをしているのに眉を顰める。しかし彼らのビジネスの実態を明かされて、読者ともども唖然とすることになる。

 

 ときおりバジルの弟ルパートも顔を出し、探偵として活躍するのだが、主役はあくまでバジル。60歳を超えているのに、囚われている高貴な夫人を助け出すためのアクションも見せる。

 

 「驕りの樹」では、コーンウォール郷士ヴォーンに土地に生えている不思議な樹がテーマ。森を侵食するように大きくなっていて、風によっては孔雀の悲鳴のような音をたてる。実際に孔雀など鳥を食うとも言われ、熱病の素にもなるという伝説がある。ヴォーンを訪ねた素人探偵たちが謎を解明しようとするのだが、ヴォーン自身が喰われたかのようにいなくなってしまう。

 

 奇怪な謎と鮮やかな解決という探偵小説で、ひとつの形を示したのが作者。鮮やかは確かなのですが、意表を突かれすぎるきらいもあります。改行が少なく、読みづらいのも難点ですが我慢して最後の行までたどりつけばOKです。