新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

欧州を侵略する3つの脅威

 2018年発表の本書は、読売新聞の三好範英編集委員が、欧州の危機的状況をレポートしたもの。筆者は3度、合計10年以上にわたりベルリン特派員を務めた。当時の人脈を生かして、以下の場所で政府・業界関係者ばかりでなく、一般市民にも取材して本書をまとめている。

 

・トルコからの難民が押し寄せる、ギリシアのレスボス島

・ロシアからのリアル侵略に備える、リトアニアの各都市

・大量の移民・難民を抱え、右傾化するドイツの首都ベルリン

EUの財政緊縮指令に苦しむ、ギリシアの首都アテネ

・中国発「一帯一路」の鉄道が来た、ドイツのデュースブルグ

 

 ロシアの侵略、中国の一帯一路、中東・アフリカからの移民・難民はいずれも、東欧や南欧を通って、英独仏に向かう。途中の国の多くが、様々な課題を抱えていて、大半がポピュリズム政権になっていると著者は言う。例えば、ポーランドチェコ・スロバキアオーストリアギリシアブルガリアハンガリー・スイス・イタリア、そしてノルウェーも。

 

        

 

 かつてのソ連に苦しめられた国々では、2014年のクリミア武力併合以来、その危機感を深めている。これは今の状況を見れば、日本人にも理解できる。また中国仕様の物流システムを強制される欧州内の一帯一路(モスクワ~ワルシャワ~ベルリン~アムステルダム~ロンドン)の通過点となる都市の不安も、むべなるかなと思う。

 

 しかし僕にとって衝撃的だったのは、膨大な移民・難民が押し寄せ「武器を持たない侵略」を受けてしまったドイツやその周辺国の苦悩だ。メルケル政権は、ナチスの反省もあって、難民はもちろん移民にも寛容な施策を採った。ただ生真面目なドイツ人は、移民らの同化ができると考えている。半年間で600単位(1単位45分)のドイツ語講習と、100単位のルール教育を課せば、ドイツ流の生き方をしてくれると思ったわけだ。しかし実態は30年経っても同化できず、異質なコミュニティを多数作った。今や大都市の人口の40%は、少なくとも片親が移民・難民でドイツに来た人。

 

 これに危機感を持つ人たちが極右化(例:AfD支持者)し、大きな分断を招いている。どの国も失業者が都市にたむろし、治安が悪化している。またギリシア危機は続いていて、若者の失業率は50%以上。

 

 日本が移民・難民に厳しすぎる国との批判はありますが、この状況を見ると「厳しくて当たり前」に思えてしまいます。