新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ハイテク国家戦略の要、丁薛祥

 2022年末発表の本書は、以前「ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略」を紹介した、中国問題グローバル研究所長遠藤誉氏による中国の新しい政治局常務委員7人(チャイナセブン)の紹介と、習近平後継者についての考察である。前振りとして、

 

習近平には、鄧小平によって父親が失脚させられた苦い経験がある

・三期目を目指したのは、後継体制が盤石になるまで辞められなかったから

 

 の2点が挙げられている。そして、米国の(ハイテク禁輸)圧力をはねのけ、台湾を平和裏に統一するには自分の後継体制を固める必要があったとある。ちなみに筆者は習政権は台湾を武力攻撃などしないが、米国が中国の台頭を抑えるために武力行使を誘っているとの考え。

 

        

 

 その後継体制が、7人の顔ぶれで読めたと筆者は言う。キーマンは序列6位の丁薛祥。最年少の60歳で、機械工学の院士(博士の上)で上海材料研究所長から1999年に政界に転じた技術者。他の5人が習近平や父親と交流が深かった人物であるのに、彼だけは2013年に半年ほど習近平と関わっただけ。しかしその後は抜擢に次ぐ抜擢で、TOP7人に加わった。

 

 筆者は、彼こそが習近平の後継者だと考えている。「中国製造2025」計画をハイテクを持って支え、宇宙戦争時代を見据えて米国に対抗できるようにするには、彼の力が必要だと習大人は思っている。確かに半導体禁輸などで中国の技術開発・産業力は問題を抱えているのだが、巷間言われるように不動産債務で崩壊するような経済ではない。

 

 外交としてもBRICSのリーダーとして、米国中心の民主主義国より圧倒的な人口を抱えた集団を形成可能だとある。これに焦った米国が、台湾問題で中国を徴発し(今のうちに)中国を戦争に巻き込んで潰したいと思っているというのが、筆者の主張。

 

 米国の行動様式はともかく、中国国内の動きとしては非常に筋の通った推理で、軍の粛清や外交手法の軟化などの動きが腑に落ちるようになりました。少なくとも、丁薛祥という名前を憶えておいて損はなさそうです。